『鏡が語る古代史』
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鏡に映る古代史の世界と人びとの心情
[レビュアー] 図書新聞
卑弥呼の鏡といわれる三角縁神獣鏡をはじめ、古代の銅鏡は不思議な魅力をたたえ、見る者を古代史の世界へと誘う。本書は鏡に刻まれた銘文や文様や図像を読み解き、鏡から読みとれる情報を手がかりに、その世界を描く一書だ。古墳から副葬品として出土する鏡には、どのような意味が込められているのか。出土した三三面の三角縁神獣鏡の鏡面がすべて被葬者に向けられていた奈良県の黒塚古墳の事例などから、倭人が漢人の習俗にならい、悪霊から死者を守るために副葬された可能性が高いと著者はいう。鏡には、鏡工たちの技や意匠の工夫が込められている。そして碑文には、人びとの心情が読みとれる。それらを明らかにする「人間の考古学」(著者)の学問的エッセンスが、本書には鏡のように映り込んでいる。(5・19刊、二五六頁・本体八六〇円・岩波書店)