『ホサナ』 町田康著

レビュー

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ホサナ

『ホサナ』

著者
町田 康 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062205801
発売日
2017/05/26
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ホサナ』 町田康著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

不条理の先、重なる現実

 強烈な小説だ。『告白』から『宿屋めぐり』へと続いた著者・町田康の過去の長編作品と同様、本書もまた、一人の男が不条理に満ちた世界を彷徨(さまよ)い進む“巡礼の物語”である。

 親の遺産で何不自由なく暮らす主人公が、愛犬家の集まりに犬を連れていくシーンから物語は始まる。そこで冷めた肉が皿に山盛りになって残るようなちぐはぐなバーベキューを行った後、栄光という名の〈光の柱〉が降り注ぎ、参加者は次々に消滅してしまう。

 だが、その決定的かと思われた終末は一度「なかったこと」にされ、次の瞬間に主人公は蒸しずしを白ワインとともに食べている。〈日本くるぶし〉と名乗る天の声に、正しいバーベキューをせよ、と命じられたままに――。

 『宿屋めぐり』で〈白いくにゅくにゅ〉に吸い込まれた男が、偽の世界から正しい世界に戻ろうとしたように、本書の主人公はどこか嘘(うそ)くさい人々に翻弄、精神的に蹂躙(じゅうりん)されながら、正しさとは何かという問いに悶(もだ)えていく。

 町田康の長編の凄味(すごみ)は、そうして描かれる不条理で歪(ゆが)んだ世界が、次第に私たちの生きる現実と重なっていくことだ。社会の欺瞞(ぎまん)や嘘、矛盾に目を向けないでいる日常が、結果的にどのような代償を支払わされるか。その構造を描こうとしたと思(おぼ)しき作家の企てに、あらためて圧倒されるほどの才気を感じた。

 タイトルの「ホサナ」とは、聖書に記された「救い給(たま)え」という意味のヘブライ語だという。

 光の柱、喋(しゃべ)る犬、怨念の化身のような毒虫の群れ、そして、腐り重なって行く手を阻む〈ひょっとこ〉たち……。

 この滅茶苦茶(めちゃくちゃ)な世界を進む男は〈抜け作〉になることで大いなる何かに身を任せようとするが、果たしてその試みはどこへ向かうのか。700ページ近い物語を一気に読み終えたとき、世界の果ての如(ごと)き場所に遠ざかっていく彼らを見送りながら、ただただ茫然(ぼうぜん)とするしかなかった。

 ◇まちだ・こう=1962年生まれ。『きれぎれ』で芥川賞。『告白』で谷崎潤一郎賞。『宿屋めぐり』で野間文芸賞。

 講談社 2200円

読売新聞
2017年6月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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