『ヨハネス・コメニウス』 相馬伸一著

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ヨハネス・コメニウス 汎知学の光

『ヨハネス・コメニウス 汎知学の光』

著者
相馬 伸一 [著]
出版社
講談社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784062586498
発売日
2017/04/11
価格
1,998円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ヨハネス・コメニウス』 相馬伸一著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

理論と実践と宗教と

 ある人物に会ってみたい、活躍を知りたいと思うことがある。学説や理論よりも、その言葉や活動が見たい。汎知(はんち)学(パンソフィア)の理念を掲げ、「生ける印刷術」という心の教育を提唱した光の哲学者コメニウスは、そんな一人である。教育学で知られてきたこの人物の全体像が、本書で初めて魅力的に示された。

 チェコ出身のコメニウスは、17世紀にイギリス、ポーランドなどヨーロッパ各地で活動し、晩年はオランダで過ごして、星形要塞(ようさい)都市ナールデンに眠る。多彩な著作を執筆し、様々な人物と交際した波乱の人生。理論と実践と宗教を総合する「パンソフィア」が中心にあった。すべて(=パン)の知(=ソフィア)、つまり「あらゆる者に、あらゆることを、あらゆる側面から」という知の理念である。それを実現するのが、言語を通じた魂の転回であり、学識、徳性、敬虔(けいけん)を目指す開かれた人間の教育であった。

 近代哲学を創始した4歳年少のデカルトは、パンソフィア理念を批判したが、生涯一度だけ面会している。50歳のコメニウスがスウェーデンに向かう途上で立ち寄ったオランダ・ライデン郊外で、2人は4時間ほど和やかに語り励まし別れた。デカルトはこう付け加えたという。「私は哲学を越えてはいかない。だから、私に残るのはあなたが扱われる全体の部分にすぎません」。コギト(我思う)から哲学原理を打ち立てたデカルトは、自分の学問とは異なる世界の豊かさと、はるかな射程を認めていた。

 総合的熟議の意義を訴え、平和神学から宗教間の調停を図る。予言に傾倒して普遍言語を構想する。生前からの毀誉褒貶(きよほうへん)は、死後の評価の変遷にもつながった。けっして一筋縄で辿(たど)れないこの人物が、今日の世界に投げかける問いは大きい。世界を無数の小さな迷宮からなる大きな迷宮に喩(たと)えたコメニウス。心の理想郷へ、本書を道案内に彼と共に遍歴する知の旅に出かけよう。

 ◇そうま・しんいち=1963年生まれ。広島修道大教授。専攻は教育学。著書に『教育思想とデカルト哲学』など。

 講談社選書メチエ 1850円

読売新聞
2017年6月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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