閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済 水野和夫 著

レビュー

8
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閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済

『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』

著者
水野 和夫 [著]
出版社
集英社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784087208832
発売日
2017/05/17
価格
842円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済 水野和夫 著

[レビュアー] 養老孟司(解剖学者)

◆グローバリズムとの決別

 すでに著者の本を読んだことがあって、内容がある程度わかっていないと、このタイトルはわかりにくいかもしれない。「閉じてゆく帝国」とはなにか。たとえばEUのような統合経済圏を考えればいい。ただしもちろん、話は経済に限らないから「帝国」なのである。これからの世界はその方向に動く。そう考えると、「逆説の日本経済」ということになる。いや、そうじゃないでしょう。TPP(環太平洋連携協定)で見るように、日本は国際化を進めているじゃないか。

 日本でいう「国際化」とは、多国籍企業の利益で、それは「帝国」ではない。国とは無関係の私企業集団である。はなはだ乱暴にいってしまえば、これが著者の考え方の要約になる。

 私自身は経済にはまったくの素人で、中年過ぎまで考えたこともないし、考えたくもなかった。給料日にはちょうど貯金がゼロになるという生活を何十年か続けた。教科書の印税が三百万円入った時に、女房と手を取り合って踊ったのを覚えている。それでは天下国家を考える余裕などない。

 今年物故した義兄は経済学者だった。専門はマルクス経済学の原論だったから、聖書の解釈学みたいなものである。だから私は経済とは抽象だと固く信じていた。もっともその意見は今でも変わらない。お金くらい、抽象的なものはない。お金が使えるのはヒトだけで、動物はこれを理解しない。だからネコに小判。

 この著者の本をはじめとして、近年は「私にもわかる」経済の本が出版されるようになった。銀行預金にいまでは利息が付かない。その意味を説明してくれたのは著者である。でもふつうに新聞や雑誌の記事を読んでいると、答えがわからない。十七世紀のイタリアでもそうだった。そう知らされると、なんだ、人間のすることに変わりはないなあ、と安心する。じつはそれが学問の意味である。学問の効用とは、現実の経済を動かすことではない。

(集英社新書・842円)

<みずの・かずお> 法政大教授。著書『資本主義の終焉(しゅうえん)と歴史の危機』など。

◆もう1冊

 吉見俊哉著『大予言』(集英社新書)。歴史を二十五年を核に、さらに百五十年、五百年の尺度で読み解き、世界の未来を展望する。

中日新聞 東京新聞
2017年6月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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