集団就職 澤宮優 著
[レビュアー] 出久根達郎(作家)
◆九州沖縄からの実態
「集団就職」という言葉はとうに死語と思っていたら、NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」で、にわかに蘇(よみがえ)った。
昭和三十~四十年代に、毎年地方の中学卒の少年少女が、集団で都市に就職した。世は高度経済成長期で労働力が足りず、安い賃金で雇える未成年者は「金の卵」と称され、引っぱりだこであった。
評者も、「金の卵」の一人である。集団就職は昭和五十年代前半まで、鳴り物入りで行われたが、その実態は意外に研究されていない。発案者がいまだ分からないのである。
本書は、主として九州沖縄の集団就職の様相が当事者への聞き書きで構成されているが、これ自体が珍しい。従来、集団就職のイメージは東北地方から上野駅に着くのが定型だったからだ。当たり前のことだが、日本全国で行われ、東日本の子は東京、西日本の子は大阪・名古屋方面に就職した(むろん例外はある)。
子どもたちは歯を食いしばって、一所懸命(いっしょけんめい)に働いた。親を楽させたいためというのが、最大の理由だった。貧困に苦しむ親を助けている、という自負が子どもたちを支えていた。
集団就職を歌った流行歌「あゝ上野駅」に「くじけちゃならない人生」という一節があるが、親のために励まなければならなかった。本書は、現代と異なる貧乏の本質を考える手がかりになろう。
(弦書房・2160円)
<さわみや・ゆう> 1964年生まれ。ノンフィクション作家。著書『昭和の仕事』。
◆もう1冊
外岡秀俊著『北帰行』(河出書房新社)。北海道の炭鉱町から集団就職した「私」の挫折と、帰郷の旅を描いた小説。