自分を大切にする力

レビュー

0
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと

『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』

著者
西原 理恵子 [著]/西村 弘美 [著、イラスト]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784041049785
発売日
2017/06/02
価格
1,188円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

母から娘への実践的アドバイス

[レビュアー] 坂東眞理子(昭和女子大学総長)

 この本は自身も壮絶な人生を生きながら二人の子供を育ててきた漫画家の西原理恵子さんが、今まさに親許から離れ自分の人生に漕ぎ出そうとしている娘さんに送るエールであり、人生の先輩としてのアドバイスです。子供たちが思春期を迎え親に反発し、独立しようともがく時期の現実が彼女らしい筆で描かれ、共感する人も多いでしょう。息子さんがアメリカでのホームステイによって自立していく話も感動的でした。

 西原さんはお母さんの代からの筋金入りの働く女性。今は素敵な男性と巡り会っていらっしゃいますが、それまで二人とも男性運はよくなかった。だから男性に対する幻想を持たないで生きてきたところが基本です。お母さんの最初の結婚相手はアルコール依存症で子供を残して事故死、次の夫はバクチ好き、家庭内暴力のあげく事業に失敗して自死。西原さんはそうした故郷からお母さんが何とか調達した百万円の軍資金を持ってイラストレーターになろうと高校中退から上京し、予備校に通い美術大学に入学します。しかし予備校のうちから周りの人たちを見て、自分は天才でないとわかる。芸術的才能がとびぬけてないと覚悟したうえで、絵を描いて食べていくために一枚五百円のカットから始め、自分で自分の道を切り開いていった人です。

 もちろん初めは描いた絵の収入だけでは生活していけず、歌舞伎町の酒場でアルバイトをして収入を補わねばなりませんでした。その間に底辺の女性の厳しい状況を目の当たりにします。その中でなぜ彼女が生き抜いてこられたのか。

 私は彼女の『自分を大切にする力』の賜物だと思います。才能だけではありません。「どうせ私はこの程度の人間なのだ」、「無理してもよい結果が出るとは限らない」、「仕方がない」と自分を貶めないことがポイントです。そうしないと自分を諦めて下流女子、貧困女子の奈落にまっしぐらです。

 生活力がなくて同居し寄生してくる男性、アルコール依存症になり、暴言を吐き、家庭内暴力をふるう夫、そうした人たちに自分の人生を吸い取られないで生きる。彼女にあったのは仕事や経済力だけではありません。自分を大事にしてくれない男性にノーという力を持ち、夫や同居人と別れて出直すエネルギーの基本は、『自分を大切にする力』です。

 しかしそうした強さの反面、近所の主婦の些細な意地悪に接してパニック症候群とうつ病になるという繊細さも持っています。

 彼女はきれいごとでなく、女の子が生きるために具体的なアドバイスをしています。第一は自分の幸せを人任せにしないこと。そのためにちゃんと自分で稼げるようになること。くいっぱぐれないためには最低限の学歴を確保する。できれば資格を取り、手に職を持つ。第二は辛抱が美徳、我慢が大切ではないこと。あなたの人格を否定されたり「暴力」をふるわれたりしたら我慢しないで逃げる。そのためのお金も持っておく。第三は自分を安売りしないこと。西原さんも原稿料を踏み倒されないために会社を作ったり、あえてそれを倒産させたり、自分の所得を確保するために工夫を凝らしています。第四は一途にならず、だめだとわかったら引き返すこと。そのためには夢はたくさん持っていること。第五は笑いを忘れないこと。大変なことはたくさんあるけれど、どんな状況になっても笑う。深刻ぶらず、自分を客観視する笑いを忘れないようにするのは、生きていくための大事な視点です。

「いい子であろうとするな」とアドバイスする彼女の出発を支え、子育てを応援してくれたお兄さんの「いい人」ぶりも心に残ります。

 経験に裏付けられた数々のアドバイスはきっと多くの読者、とくに若い女性に役立つに違いありません。

KADOKAWA 本の旅人
2017年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

  • このエントリーをはてなブックマークに追加