[本の森 恋愛・青春]『最愛の子ども』松浦理英子/『かがみの孤城』辻村深月/『おまえのすべてが燃え上がる』竹宮ゆゆこ
レビュー
書籍情報:openBD
[本の森 恋愛・青春]『最愛の子ども』松浦理英子/『かがみの孤城』辻村深月/『おまえのすべてが燃え上がる』竹宮ゆゆこ
[レビュアー] 高頭佐和子(書店員・丸善丸の内本店勤務)
松浦理英子氏の『最愛の子ども』(文藝春秋)が刊行されたことは、私にとって今年の重大ニュースの一つだ。「読んだ?」と確認するのが、挨拶になっているくらいに。どんな小説かと聞かれると、ちょっと困る。『犬身』や『奇貨』もそうだったが、松浦氏の小説は説明が難しい。舞台は高校の女子クラス。「その中に擬似家族がいて」と言うと「よくわからない」という顔をされてしまう。
落ち着きがあり魅力的な「パパ」日夏。世渡りがあまりうまくない「ママ」真汐。ぼんやりしているが歌がうまい「王子様」空穂。この三人を「家族」とする設定が、クラスの中で共有されており、まるでロイヤルファミリーのように「目撃者」である生徒たちに観察され、その状況を三人も受けいれている。ただの仲良しとも恋愛関係とも違う三人の関係。それを観察し、想像を繰り広げる「目撃者」たち。大人や社会から押し付けられる規定の中に、自分を収めることのできない彼女たちの生きづらさ。読んでいるうちに、わけもわからず孤独で不器用で、それなのに苦しんでいる友達をどうしても助けたかった高校時代の自分が重なった。あの感情は未だにどこか消化不良であると同時に、生きていくための原動力にもなったのだと思う。この小説を読まなければ、ずっと気がつかなかっただろう。
空穂の頬を弄ぶ日夏の仕草と、二人の関係が変化するシーンには、自分でも呆れるほどドキドキした。いろいろな感情がこみ上げてきて、どうにかなりそうだ。
辻村深月氏の『かがみの孤城』(ポプラ社)も、生きづらい中学生の物語だ。学校に行かれなくなった主人公のこころは、部屋にこもっている時に、突然鏡の中に引きずりこまれる。そこで出会う六人の中学生は皆「誰もわかってくれない」という感情を抱えている。謎の城、狼少女、願いを叶える鍵……。この魅力的な設定! 中学生じゃない自分が残念だ。
辻村氏は登場人物のおかれた状況や心理を、リアルに詳細に、そして温かく描く。その優しい視線には、いつも自分自身が救われるような気持ちになる。十代で出会っていたら、きっと親友のような小説になったと思うけれど、青春を遠く過ぎてから出会った私にとっても、どんな大人でありたいかを考えさせられ、心の中に火を灯してくれた大切な一冊だ。
生きづらい小説が続いたところで、竹宮ゆゆこ氏の恋愛小説『おまえのすべてが燃え上がる』(新潮社)もぜひ。構造の斬新さと破壊力にはいつも驚かされるが、それ以上に、困難な状況の中で必死にもがく女子の生きざまを、真摯に描いているところに心を打たれる。幅広い世代に知っていただきたい作家である。