時代小説の名手が描く、新選組の栄華と悲哀
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
講談社の作家競作アンソロジー〈決戦〉シリーズの勢いが止まらない。
これまで戦国中心だったこの連作、今年に入ってから『決戦! 忠臣蔵』を刊行。今度は『決戦! 新選組』ときた。
少年期にトラウマとなる暗い事件に遭遇した沖田総司と、新選組の憎まれ役・芹沢鴨――これが実に人間味あふれる筆致で描かれている――との哀しい交諠を描く葉室麟「鬼火」から快調なスタートを切る。
池田屋事件を軸に近藤勇と谷兄弟を主役に据え、人間の中に巣喰う怯懦をテーマに抜群の効果を発揮した門井慶喜「戦いを避ける」、当代きっての新選組ものの書き手、小松エメルの「足りぬ月」は集中きっての力作。これまで藤堂和泉守の御落胤として、かつ、伊東甲子太郎と共に新選組を離脱、その陰陽両面が描かれることの多かった藤堂平助を、実に陰翳深く掘り下げ、他の追随を許さぬ出来栄え。
中途に山南敬助の切腹等も実に見事に盛り込み、平助を客観視する役割を演じる斎藤一が、油小路で、平助の死と月明かりを二重写しにするラストも秀逸。
土橋章宏の「決死剣」は、明治の御世まで生き、新選組に関する貴重な回顧録をまとめた永倉新八が主人公。がむしん=がむしゃらのあだ名を持つ新八の「いい奴から死んでいく――」という総司への思いを始め、不動の転戦ぶりを描いている。
この他、永倉新八同様、生き残る側になってしまった斎藤一の嘆息を巧みに捉えた天野純希「死にぞこないの剣」や、土方歳三は鬼から兵たちのお守り役=母になれたのかを問うた木下昌輝「慈母のごとく」まで全六篇。
どれも新選組ファンを唸らせる逸品揃いだ。