『小鳥冬馬の心像』
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鬱病と盲点
[レビュアー] 石川智健(作家)
母親が鬱(うつ)病を発症したのが去年の春頃だった。いろいろなことが複合的に重なり合い、心が折れてしまったのだろう。
それまで、ほとんど他人事(ひとごと)だと思っていた鬱病について、真剣に考えざるを得ない状況となってしまった。母が一番つらいのは、見ていて分かった。しかし私も、心の病というものを理解することに苦心した。
当初私は、鬱病は治さなければならない病気と考え、治すことができる病院探しに奔走した。ただ、私がしたことは裏目に出るばかりで、結果として本人を苦しめただけだった。鬱病について書かれた本を読み漁(あさ)り、分かったつもりになっていたが、すべて逆効果だったように思う。
打ちひしがれていた私は、気晴らしに鬱病とはまったく関係のない本を手に取った。そこに偶然、鬱病に関する記述があった。ただ、今まで読んだものとはまったく違う解釈が展開されており、鬱屈した状態や、強迫神経症といったものを患っているからこその“利点”が紹介されていた。
それを読んだことで、鬱病に対する見方が一気に変わった。
鬱病が悪だという姿勢を改めたことで、母に対する接し方も変化した。
無理に治さなくてもいい。なんとかやっていける状態を維持できれば御(おん)の字だ。鬱病も、そこまで悪いものじゃない。
一気に、肩の力が抜けた。
不思議なことに、それから母の容態も安定してきた。
闘って打ち負かすのではなく、現状を受け入れる。このスタンスは、時として最大の戦略になると感じた。
『小鳥冬馬の心像』は、母親が鬱病になったからこその賜物(たまもの)だと言える。
一見して悪いことでも、見方を変えれば意外な盲点が潜んでいる。