『名探偵は噓をつかない』&『探偵さえいなければ』刊行記念対談 東川篤哉×阿津川辰海

対談・鼎談

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名探偵は嘘をつかない

『名探偵は嘘をつかない』

著者
阿津川辰海 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334911638
発売日
2017/06/15
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

探偵さえいなければ

『探偵さえいなければ』

著者
東川篤哉 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334911706
発売日
2017/06/15
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『名探偵は噓をつかない』&『探偵さえいなければ』刊行記念対談 東川篤哉×阿津川辰海

――この作品の肝になる特殊設定とトリックは、いつごろから構想があったのですか?

阿津川 もともとは、大学のサークル誌で、この作品に名探偵として登場する阿久津透が主人公のミステリー短編を何本か書いていて、そのなかで、死んだ人間が転生して蘇ってくるという設定が出来上がってきまして。この作品は、その連作短編の最終作として、名探偵と転生と裁判が全部でてくる話として考えていたものです。「カッパ・ツー」に応募しようと考えたときに、このアイディアを、今までの短編を読まなくても、この一作のなかで全部理解できるような形に書き直して使うことにしました。なので、短編連作を実作する中で出来てきた、という感じですかね。

――「カッパ・ツー」に選ばれました、という連絡があったときは、どう思われました?

阿津川 純粋に、うれしかったです。

東川 さほどの感動はないんじゃないかと(笑)。いや、僕も、「選ばれました」と言われたとき、「は~ん」っていう感じでしたから。そんなに「やった!」とか思わなかった。思わないでしょ? 「カッパ・ワン」の前、『本格推理』(光文社文庫)で短編が活字になったときのほうがうれしかったですね。阿津川さんは連絡があったとき、どこにいたんですか?

阿津川 自宅で電話を取りました。その日に選考会がある、という連絡を事前にもらっていたので、結構緊張して待っていましたね。

東川 僕の時の「カッパ・ワン」は、「秋頃に連絡をします」と言われていたのに、その秋を完全に通り過ぎたので、もう何もないんだと思ってたら、十二月になってから連絡をもらったんですよ。だから「は~ん」って。

――選ばれたあと、先程もありましたように石持さん東川さんと会っていただいて、刊行に向けての修正案を相談していきましょう、という話になりましたよね。阿津川さんはそのとき、どう思っていました? 「こりゃ大変だ」という感じですか? それとも「やってやるぞ」という感じ?

阿津川 そうですね。連絡をもらったときはうれしかったんですけど、「ジャーロ」の最終選考対談を読んだら……、「やばいな」って(笑)。応募期間のうち、早い時期に送っていて、その段階で一年くらい前の原稿だったので、久しぶりに読み返してみたんです。それでなおさら真っ青になりました。よく私、これで応募したなって(笑)。どう改稿したらいいんだろうな、と悩みながら座談会に伺ったんです。でも、お二人の話を聞いていて、だんだんと「課題は多いけど、できるかもしれないな」と思い始めました。帰ってからまた、「どうしたらいいんだろうな」と頭が痛くなったりもしましたけど(笑)。

――この対談の時点で、本作は阿津川さんの手を離れ、刊行を待つばかりなわけですが、どんな風に読んでもらいたいですか?

阿津川 楽しんで読んで欲しいという思いだけですね。特に序盤で、「ここで楽しんでいって」というつもりで、いろいろ詰め込んでいますから。長い作品なので、読むのも大変だとは思うんですが、読んでる間中楽しんでもらえれば、いちばん幸せですね。

――それでは、同時刊行になります東川さんの『探偵さえいなければ』について。奇しくも、タイトルに「探偵」が登場する二作となりました。阿津川さんにも刊行前のゲラで読んでもらったんですが、どうでした?

阿津川 東川さんの新作で、しかも烏賊川市のシリーズですから、ものすごく楽しんで読みました。僕は、烏賊川市の短編では「藤枝邸の完全なる密室」という作品が大好きなんですよ。東川さんは、最近、倒叙スタイルの短編をよく書かれているじゃないですか。「魔法使いシリーズ」(文藝春秋)のような理知的な倒叙ものもあるんですけど、「藤枝邸」の系列の作品って、犯人が翻弄されるさまを楽しむという趣向のシチュエーションコメディですよね。今回収録されている「倉持和哉の二つのアリバイ」とか「被害者によく似た男」もそうで、犯人が翻弄されていて、しかも証拠や手がかりをもとに容赦ない詰め方をされる、という。楽しかったですね。


阿津川辰海さん

――今回収録されているなかでは、どれがいちばんお気に入りですか?

阿津川 「ゆるキャラはなぜ殺される」です。純粋にシチュエーションが楽しいですし、トリック分類的に分析して語ることもできる作品なんですが、そこにゆるキャラが登場することで、バカミス的な雰囲気が作られていて。いちばん笑えましたし、いちばんトリックにびっくりしました。

――東川さんご自身は、この短編集、どういう印象を持っていますか?

東川 倒叙ものが三作入ってるんですよね。あとは、「ゆるキャラ~」がガチな本格ミステリで、「とある密室の始まりと終わり」は、なんというか……、変な話です(笑)。いや、これは要するにですね、ネタに詰まったから、こういう話ができたんですよ。最近は使えるネタに困っている。だけど「魔法使いシリーズ」をやっているせいか、倒叙ものになりそうなアイディアは、わりと浮かぶんですね。ただ、あのシリーズの場合、ある程度、物語に時間が必要というか、要するに事件がすぐに解決しちゃまずいんですよ。でも、たとえば「倉持和哉の二つのアリバイ」だと、時間的にはすぐ解決する話じゃないですか。

――今回、難事件がほとんどないですよね(笑)。

東川 そう、だから、「魔法使いシリーズ」では使い物にならない、でもどこかではやりたいと思っていたアイディアが残ってた。で、そういうのをやるのは、烏賊川市しかないんですよ。結果、変な話が集まってしまった、というわけです。

阿津川 いかがわしい話が集まっていますよね(笑)。警察が介入したらすぐ解決するような話でも、どのタイミングで探偵がかかわったら面白くなるかを、しっかり検討して作られていて、やっぱりうまいな、と思いました。……完全にファンとして語ってますけど(笑)。

――作中で、振り回されてドタバタしている犯人たちは、各話の締め切りに向けて奮闘している東川さんの二重写しなんでしょうか。

東川 いや……、それは……、どうなんでしょうね(笑)? ただ、倒叙ミステリーは面白いですよね。今回、こうしたスタイルの話が多い理由はほかにもあって、少し鵜飼を書き飽きたんですよ(笑)。今回、あんまり鵜飼出てないですもん。

阿津川 探偵役、全部変えてますもんね。

東川 そう、今回は全部変えてます。朱美さんが探偵みたいになる回もあるし、久しぶりに砂川警部が探偵役をしたりもしてる。烏賊川市シリーズって、もともと、舞台が烏賊川市ってだけで、ゆるいシリーズだから、必ずしも鵜飼が探偵じゃなくてもいいんだけど、最近はずっと、彼だけが探偵役になっていたので、そこは意識して変えました。

――このシリーズは、第二弾の『密室に向かって撃て!』の段階で、探偵役が鵜飼じゃなくなってましたからね。

東川 そうなんですよ。ずっと鵜飼が探偵役だと、かえって烏賊川市シリーズらしくないような気がしていました。

――東川さんご自身の、今回のお気に入りはどの作品ですか?

東川 「博士とロボットの不在証明(アリバイ)」かなあ……。これ、ある家電を買ったら、すぐ思いついたんですよ(笑)。

――あ、それ以上は、ネタバレになりますね……。さて、「烏賊川市シリーズ」は、今後も続けていただきたいのですが、展望はありますでしょうか。

東川 長編を書かないといけないですよね、もうさすがに。今作も、まあまあ面白いと思いますけどね(笑)。特に、日本推理作家協会賞を取り損ねた「ゆるキャラはなぜ殺される」を読んで欲しいかな。

光文社 小説宝石
2017年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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