『会津執権の栄誉』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
<東北の本棚>芦名家崩壊への道描く
[レビュアー] 河北新報
室町時代に会津守護を名乗り、戦国時代には奥州を代表する有力大名となった名家・芦名家は、家臣による18代当主盛隆の暗殺をきっかけに屋台骨が揺らいでいく。後継ぎの亀王丸隆氏は早世し、家臣団はもめにもめた末、常陸(ひたち)国の大名、佐竹義重の次男義広を20代当主に迎える。この時、崩壊への道は既に始まっていた…。
本書は、オール読物新人賞受賞作家のデビュー作であり、6編から成る連作短編集だ。物語の柱となるのは、佐竹家から当主を迎えたために起きた譜代の家臣と佐竹家から来た新参の家老らとの根深い対立。これが宿敵である伊達政宗との戦いに、暗い影を落としていく。
「湖の武将」は、芦名家内の足並みの乱れにつけ込んだ伊達側の調略によって、芦名家の重臣で血族でもある猪苗代盛国が裏切るまでの舞台裏を描く。「芦名の陣立て」「退路の果ての橋」は伊達側との熾烈(しれつ)な情報戦、駆け引きがテーマ。各短編で主人公を変え、芦名家譜代の重臣の嫡子や新参家老の家臣、足軽などの視点から、芦名家がなぜ窮地に追い込まれていったのかを複層的に描き出す。著者初の連作だが、緻密な構成が光る。史実と創作を巧みに融合させ、壮大で、読み応え十分の物語を紡いだ。
表題作の「会津執権の栄誉」は、ほぼ全編に登場し、会津の執権の異名を持つ家臣筆頭、金上盛備(かながみもりはる)が主人公。芦名、伊達両家が雌雄を決することになった摺上原(すりあげはら)の戦いで芦名側が大敗するまでを描く。開戦から時間をさかのぼり、最後は金上が討ち死にする直前まで戻る構成が、読む者を引き込む。執権という名聞に浮かれ、慢心があったのではないかと、金上は最後に思い至る。金上の内面に迫り、説得力がある。相当な力量がないと、ここまで書けないだろう。
筆者は1962年福島市生まれ。2011年「夢幻の扉」でオール読売新人賞、16年に「啄木鳥」で決戦!小説大賞を受賞した。
文芸春秋03(3265)1211=1566円。