『縄文とケルト』 松木武彦著

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縄文とケルト

『縄文とケルト』

著者
松木 武彦 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784480069610
発売日
2017/05/09
価格
886円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『縄文とケルト』 松木武彦著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

二つの「辺境」の共通性

 イギリスのストーンヘンジに代表される、巨石をまるく立ち並べたストーン・サークル(環状列石)。誰が何のために作ったか分からない、その遺構が宇宙人の基地だという説を、子供の頃、児童雑誌で読んで、ワクワクした覚えがある。しかも同様の遺構はわが国の秋田県大湯などにもあると言うのだから、さらに興奮は高まる。長じて、それらがまったく別々の原始人の祭祀(さいし)遺跡だったと知って、「そりゃそうだよな」と納得する反面、少しガッカリした。

 ところが本書では、それらの遺跡を通じて日本の縄文文化とイギリスの先ケルト文化の共通性が導き出されている。ストーン・サークルやヘンジ(円形土塁)など、一見、「他人のそら似」とも思える構築物をもつ二つの文化の究極の共通項は、宇宙人ではなく「辺境」。一方で都市や国家の形成という「文明」化の方向に向かう地域(中国・ローマ)を横目で見ながら、二つの「辺境」地域はともにそれとは異なる「非文明」型の社会へと向かった。

 どこかに特別な場所を作って石や骨を集めて、意味ありげに並べたり。また、そこに祀(まつ)られるものには人と動物の境界がなかったり。人の生死と太陽の運行をアナロジー(類似・類比)でとらえたり。遠く離れた場所にありながら、遺跡から分かる二つの地域の精神活動は、実は人類普遍の認知原理で繋(つな)がっていたのだ。

 グランド・セオリーが崩壊して、近年の歴史研究はどの分野も個別細分化、タコツボ化の隘路(あいろ)に迷い込んでしまった。下手をすれば、自分の専門研究を他分野の成果とつき合わせる「比較史」は、キワモノ扱いされる始末。そんななか、本書はスケールの大きな仮説を提示して、私たちを挑発する。その後、二つの文化がどのような理由で異なる自意識をもつに至ったか、の指摘も示唆に富んでいる。東西のストーン・サークルの奇妙な符合にUFO基地を夢みた少年時代の好奇心が、久々に呼び覚まされた。

 ◇まつぎ・たけひこ=1961年生まれ。国立歴史民俗博物館教授。専攻は日本考古学。2008年、サントリー学芸賞。

 ちくま新書 820円

読売新聞
2017年6月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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