『教養としての社会保障』 香取照幸著

レビュー

6
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教養としての社会保障

『教養としての社会保障』

著者
香取 照幸 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784492701447
発売日
2017/05/19
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『教養としての社会保障』 香取照幸著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

系譜、現状、提言明快に

 少子高齢化が進む中で社会保障の持続可能性について不安を持つ人々が増えているようだ。「年金は破綻する」といった論調などその最たるものであろう。半世紀近く生命保険業界に身を置いてきたので補完関係にある社会保障については興味があったが、信じられないようなトンデモ本が多くバランスの取れた概説書に出会った記憶があまりなかった。本書を読んで探し求めていた良書にやっと巡り会えた感がした。

 本書は3部構成をとっている。第1部はビスマルクに始まる系譜、基本哲学からわが国の社会保障制度の概要まで制度の基本が過不足なく語られる。第2部はマクロから見た社会保障。少子高齢化に喘(あえ)ぐ社会の現状、産業としてGDPの2割を支える社会保障、国家財政との関係がバランスよく整理されている。1、2部とも記述が公正かつ客観的で説明を裏付ける図表やデータも豊富で、わが国の社会保障が置かれている状況の全貌がとても理解しやすい。

 そして第3部は、安心を取り戻すための改革の方向性や具体的な政策提言が語られる。著者は北欧モデルを一つの参考にしているようだが、「安心と成長の両立」「就労と家庭の持続的両立」「普通の人が普通に働いて普通に暮らせるための年金と雇用を一体とした制度設計」「個別医療機関によるマンツーマン・ディフェンスから地域の医療機関全体でのゾーン・ディフェンスへ」など骨太の方向性に異論を挟む人はおそらくいないだろう。「日本国が潰れない限り公的年金制度は潰れません」「積立方式でも賦課方式でも本質的には同じ」などトンデモ論に対しても小気味がいい。僕は、健康保険、厚生年金保険などの被用者保険の適用拡大こそが改革の本丸と思ってきたが、「非正規労働者を被用者保険の適用外としているということは、『格差をなくそう』としている社会保障制度が格差を再生産しているということですから、洒落(しゃれ)にもなりません」という著者の言葉に深い感動を覚えた。 ◇かとり・てるゆき=1980年厚生省(現厚生労働省)入省。年金局長、雇用均等・児童家庭局長を経て、昨年退官。 東洋経済新報社 1600円

読売新聞
2017年6月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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