樹木たちの知られざる生活 ペーター・ヴォールレーベン 著

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樹木たちの知られざる生活 ペーター・ヴォールレーベン 著

[レビュアー] 宇江敏勝(作家・林業家)

◆耳澄まし、森の声聞く

 樹木とは、木とはなんだろう、という好奇心にかられて読まされた。樹木と動物との違いはなにか。木には考える能力があるのか。感受性はどうなっているのだろう。

 ドイツ人の著者は、長年にわたって勤務した営林署から離れて、いまは個人的な立場で森林の保護と営業にあたっている。

 樹木は地中に根を張っていて動くことはできないし、動物のような機能する脳ももっていない。しかし、たとえば葉っぱが毛虫に食害されると、特殊な液を分泌して蜂などの天敵を呼び寄せる。また街灯に照らし続けられた樹木が活力を失うのは睡眠ができないからだし、広葉樹が冬に落葉するのは冬眠のためである。

 あるいは、歩いて移動できないかわりに、いろいろな手立てでもって、種子を鳥や鼠(ねずみ)や風に運ばせている。遠くまで子孫をふやすとともに、氷河期のような長い歳月にわたる気象の変動にも対応してきた。現代では地球温暖化による変化も見られる。

 「樹木がどう考えているのかは私にもわからない」としながら、著者は「ある日、本当に樹木の言語が解明され、たくさんの信じられない物語が聞けるかもしれない。その日がくるまで、森に足を踏み入れて想像の翼を羽ばたかせようではないか」とも語っている。

(長谷川圭訳、早川書房・1728円)

<Peter Wohlleben> 1964年、ドイツ生まれ。フリーランスの森林管理官。

◆もう1冊 

 宇江敏勝著『樹木と生きる』(新宿書房)。自分で植えた木で家を建てる。そんな熊野での暮らしを語るエッセー集。

中日新聞 東京新聞
2017年6月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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