『チェーン・ピープル』 三崎亜記著

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チェーン・ピープル

『チェーン・ピープル』

出版社
幻冬舎
ISBN
9784344031005
発売日
2017/04/20
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『チェーン・ピープル』 三崎亜記著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

異様な静謐、白い味わい

 表題作を含む六篇(へん)で構成された短編集。

「正義の味方」――塗り替えられた「像」

「似叙伝」――人の願いの境界線

「チェーン・ピープル」――画一化された「個性」

「ナナツコク」――記憶の地図の行方

「ぬまっチ」――裸の道化師

「応援」――「頑張れ!」の呪縛

 というふうに、個々のタイトルに何とも暗示的な短い添え書きがついている。

 デビュー作の『となり町戦争』を始めとして、三崎亜記さんの作品には独特の空気感がある。とにかく落ち着いているのだ。SF的なアイデアが核になっていて、けっこう不気味でカタストロフな出来事が起きている作品でも、一種異様なまでの静謐(せいひつ)さをたたえている。

 本書はできるだけ事前情報をいれずに読んでいただきたいタイプの本だが、ちょっとだけ内容を明かすと、「チェーン・ピープル」は、全国津々浦々どこでも同じ店舗仕様で同じ品揃(ぞろ)えのチェーン店のように、多くの人々が一つのプロトタイプな人格に合わせて暮らしてゆくというお話だ。「ぬまっチ」は、目に見えない着ぐるみを着ているというふれこみで(つまり着ぐるみ無しで)ゆるキャラになった中年男性をめぐる騒動。コメディではないが、読んでいて笑ってしまうところもある。こうした作風は、一般的には「ブラックな味わい」と評されるのだろうが、本書はちっともブラックではない。むしろ印象は限りなくホワイトだ。

 この白さ、滅菌されたような清潔さこそが、三崎亜記の真におっかない魅力なのだと思う。本書を読んでいると、真っ白な服を着て密封されたカプセルに搭乗し、人間性の暗闇を巡るアトラクションを楽しんでいるように感じる。でもページを閉じてカプセルから降りた瞬間に、六篇で巡り見てきたその暗闇が、自分の心臓のなかでも脈打っていることに気がつくのだ。

 ◇みさき・あき=1970年福岡県生まれ。2004年『となり町戦争』で小説すばる新人賞。同作は映画化もされた。

 幻冬舎 1600円

読売新聞
2017年6月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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