『最後のヴァイキング』 スティーブン・R・バウン著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

最後のヴァイキング――ローアル・アムンセンの生涯

『最後のヴァイキング――ローアル・アムンセンの生涯』

著者
スティーブン・R・バウン [著]/小林政子 [訳]
出版社
国書刊行会
ISBN
9784336061515
発売日
2017/05/29
価格
3,780円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『最後のヴァイキング』 スティーブン・R・バウン著

[レビュアー] 服部文祥(登山家・作家)

アムンセン、栄光と実像

 極地探検の英雄時代は、ナンセンの北極放浪にはじまり、ノルウェー人のアムンセンと英国人のスコットの南極点到達レースで頂点を迎え、シャクルトンのエンデュアランス号漂流で終焉(しゅうえん)する。今から100年すこし前の話だ。

 発展途上の科学力に、知恵と勇気と鍛え抜かれた肉体をあわせれば、地球上に未踏として残された地域もなんとか踏破することができた。それは人間の探検力と極地環境の厳しさが拮抗(きっこう)した時代だった。

 アムンセンとスコットが南極点到達を争い、結果的にはアムンセンが先に到達して、スコット隊は帰路遭難して全滅した。栄光と悲劇の両極端に別れたふたつの探検隊を、どう分析するかが、100年以上経(た)ったいま伝記を世に問う意義のひとつだ。

 本書は隊員の日記までひもとき、状況を明確にした上で、アムンセンのほうが探検家としてもリーダーとしてもすぐれていたと分析する。

 英雄時代の探検は、多くが翻訳され日本でも探検記愛好家に親しまれてきた。ただ読み慣れてくると活字にできずごまかしている部分も見えてくる。多くは資金繰りに関することだが、アムンセンの周辺には以下のような噂(うわさ)がある。

 北西航路探検で北極圏に越冬したあと、イヌイットの女性が青い目の子を次々に産んだ。アムンセンはスコット隊が犬を使わなかったことに批判的だった。ナンセンの推薦で南極に連れて行ったヨハンセンとの対立は激しかった。

 それらアムンセンを巡るゴシップは、これまで日本語にならなかった。本書はそれらの疑問にも、伝記として切り込んでいる。そしてアムンセンの最期は、仲違(たが)いしていたイタリアの探検家を助けるために遭難したとヒロイックに語られてきたが、真相はより複雑なようだ。

 極地探検記がはじめてでも、事情通でも深く楽しめる、アムンセンとその時代を追ったすぐれた一冊である。小林政子訳。

 ◇Stephen R. Bown=カナダ生まれ。大学で歴史学を専攻後、メディアの世界に身を置く。著書に『壊血病』。

 国書刊行会 3500円

読売新聞
2017年6月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加