『人民元の興亡』 吉岡桂子著

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人民元の興亡 毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢

『人民元の興亡 毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢』

著者
吉岡 桂子 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784093897716
発売日
2017/05/24
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『人民元の興亡』 吉岡桂子著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

日中関係の試金石に

 改革開放以来、飛躍的な経済成長を続けている中国。それに伴い、人民元は国際通貨としての存在感を増し、近い将来、ドルに代わる基軸通貨になるのではないかという予測さえある。国際化が進む人民元は、今後どこへ向かうのか。共産党による集権体制に風穴を開けることはあり得るのか。本書は、こうした問いを念頭に置きながら、清朝末期から現代に至る中国の通貨一五〇年の歩みを辿(たど)った通史である。

 かつて中国には、千種類を越える通貨が存在していた。袁世凱、蒋介石ら近代中国の指導者たちにとって、通貨の統一は大きな課題であった。英国や日本もそれに挑んだが、果たせなかった。それゆえ、人民元の登場は、中国の長い歴史の中で初めての通貨統一と言ってよい。著者はその意義を、文明史的な視点から考察している。「一国二制度」のもとで維持されている香港ドル、人民元の規制をかいくぐる仮想通貨ビットコインなど、近年の通貨をめぐる興味深いエピソードも満載である。

 国際金融のキーマン達(たち)へのインタビューがふんだんに引用されており、圧巻である。欧州中央銀行の元総裁トリシェ、現日銀総裁の黒田東彦(はるひこ)らの生の声が、大変印象的だ。彼らと異なり、中国の金融家は自らの考えを発信する機会が極めて少ないが、著者は綿密な取材を重ね、江沢民(ジアンズォーミン)、朱鎔基(ジューロンジー)といった政治家、中国人民銀行総裁の周小川(ジョウシャオチュアン)らの人物像や考えについても探っている。

 日本の「円」(YEN)と中国の「元」(YUAN)は、語源が同じだというが、現在でもお互いに無視し得ない関係にある。中国は日本円の歴史に強い関心を持っており、プラザ合意からバブル崩壊に至った日本の経験を、「失敗例」としてよく学んでいるという。アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立も、かつて日本がアジア開発銀行(ADB)を設立した経緯に学んだ結果でもある。通貨をめぐる攻防は、今後の日中関係の試金石となるだろう。

 ◇よしおか・けいこ=1964年岡山県生まれ。朝日新聞編集委員として、バンコクを拠点にアジアを取材している。

 小学館 1800円

読売新聞
2017年6月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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