『家をせおって歩いた』 村上慧著

レビュー

4
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家をせおって歩いた

『家をせおって歩いた』

著者
村上慧 [著]
出版社
夕書房
ジャンル
芸術・生活
ISBN
9784909179005
発売日
2017/04/17
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『家をせおって歩いた』 村上慧著

[レビュアー] 長島有里枝(写真家)

 建築学科出身のアーチストが、二〇一四年四月からの一年、発泡スチロールで作った家を背負って国内を歩いた。その経験を綴(つづ)った日記をまとめたのが本書だ。

 東日本大震災をきっかけに、「閉じた生活」をなんとかしたいと思い、著者が選んだのは「移動し続ける」ことだった。寝るのにかろうじて十分なサイズの家を携帯し、その中で寝泊りしながら、行った先に建つ家の絵を描くというなんとも奇妙な生活。移動中は家を「被(かぶ)って」歩くため、彼を見かけた人は「家が歩いてた」と写真つきでツイートする。歩くことで見えてくる小さきものたちの営みに感動し、歩行者に構わず猛スピードで走り抜けるトラックに、いまの社会の有りようを重ねて怒る。夕方には家を置く敷地を探して、現地の人と交渉する。そんな日々を続けながら、夏は東北、冬は九州へと移動を続ける。

 若さゆえの無謀と瞬発力、繊細さや鈍感、著者自身の不器用さと純粋さが、ひしひしと伝わる。ちょっと笑える「探究」に、真面目に一年を費やすこの人は、いかにも美術家だなぁとニヤニヤした。

 夕書房、2000円

読売新聞
2017年6月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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