『坂茂の建築現場』
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<東北の本棚>災害時の支援にも全力
[レビュアー] 河北新報
創意工夫に富んだ低コストの建物を設計し、世界中の災害現場に飛んで、家を失った人々を支援する。本書は2014年に建築界のノーベル賞といわれる米プリツカー賞を受賞した著者が、30年にわたって手掛けた約100カ所の建築作品を解説した。混乱が続き資材も乏しい災害現場で、いかに早く、住み心地のいい住環境を提供できるか。周囲の状況を読み解き、解決策を示す。新しいJR女川駅舎(宮城県女川町)の設計も手掛けた、行動する建築家の気概がひしひしと伝わってくる。
著者は「紙管(しかん)」と呼ばれる再生紙の筒をつなぎ合わせてシェルターや住宅を造る。東日本大震災では被災者のプライバシーを確保する間仕切りとして活用し、50カ所を超す避難所に1800ユニットをボランティアで設置した。女川町では限られた土地を有効活用するために、野球場に海運用コンテナを積み重ねた3階建て仮設住宅を造った。作り付け家具を設けて手狭さを解消し、住民からは「家賃を払ってでも住み続けたい」と親しまれた。
フランスの「ポンピドーセンター・メッス」など代表作は数多い。一方で、90年代半ばから発展途上国の難民や被災者の支援活動にも全力を傾ける。企業や富裕層のためだけではなく、余裕のない人々のために何ができるかという、建築家としての社会的役割を追求する真摯(しんし)な姿勢がある。
1957年東京都生まれ。米国のクーパー・ユニオン建築学部卒。85年に坂茂建築設計を設立。95年から国連難民高等弁務官事務所コンサルタントを務め、同年、災害支援活動団体「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク」を設立。
平凡社03(3230)6573=2808円。