『唐木順三』 澤村修治著

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唐木順三

『唐木順三』

著者
澤村 修治 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784623080557
発売日
2017/06/10
価格
4,320円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『唐木順三』 澤村修治著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞社特別編集委員)

思索深めた「野の人」

 「思索する人(Denker)」唐木順三には四つの顔があった。筑摩書房の編集に携わった出版人、『無用者の系譜』はじめ数々の著作のある評論家、専門学校や大学での教職者、そして故郷信州での教育活動家という顔である。四つの顔には一貫して流れるものがあった。

 第一は、大切なのは「人」そのものであるということだ。唐木にとって「心の底から、なんのためらひも、こだはりもなく、先生といへる、真の先生」の一人だった西田幾多郎への思いも哲学者の思想の跡にではなく、その「人」に魅了されたからにほかならない。

 第二は「深みの自在に宿した近代批判」であり、日本の良さを求めての日本発見・日本回帰の旅である。

 唐木については粕谷一希『反時代的思索者』(藤原書店)という名著がある。今度の評伝は唐木の人間と人生に深く共感した著者が名著も踏まえ、華麗な文章で丁寧に仕上げている。白眉は小林秀雄の「無常といふ事」と唐木の『無常』を比較しての小林・唐木対比論である。

 〈小林には緊迫があり、唐木には明晰がある。小林には断言があり、唐木には説明がある。小林は押っ取り刀で駆けつけていきなり一刀両断する。唐木は腰に大小をきちんと差して悠然登場しまずは構えから入る〉

 〈小林は詩人肌で鋭敏な都会人である。一方の唐木は教師肌で野の人である。どちらも近代批判の眼と念はきびしいが、小林には青ざめた街を歩く趣味人的繊細があり、唐木には緑の山脈を眺める田園者の質実がある〉

 もはや明らかだろう。二人の差異は方法と文体、さらには人間性の違いであり、どちらに軍配を上げるかは読者である私たちの志向(好み)にあるということなのだ。

 読みながら以前買った『唐木順三全集』(筑摩書房)と最近の『唐木順三ライブラリー』(全3巻、中央公論新社)が本棚に収まったままであることに慚愧(ざんき)の念を覚えた。

 ◇さわむら・しゅうじ=1960年東京都生まれ。文芸評論家。著書に『宮澤賢治と幻の恋人』『天皇のリゾート』など。

 ミネルヴァ書房 4000円

読売新聞
2017年7月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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