『平均思考は捨てなさい』 トッド・ローズ著

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平均思考は捨てなさい

『平均思考は捨てなさい』

著者
トッド・ローズ [著]/小坂 恵理 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
哲学・宗教・心理学/心理(学)
ISBN
9784152096906
発売日
2017/05/24
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『平均思考は捨てなさい』 トッド・ローズ著

[レビュアー] 柳川範之(経済学者・東京大学教授)

我々が騙されるわけ

 アメリカで執筆された本の翻訳なのだが、今の日本のために書かれたかのような内容だ。

 多くの人が、自分が「普通」でいられているか、「平均」からずれていないかをひどく気にするのが、今の社会だろう。

 しかし、実は、平均的な人間は、ほとんど現実には存在しない。平均的な体形を計算で割り出しても、現実にはその体形の人をほとんど見つけることができないとか、スキャンをした脳の活動マップの平均を割り出してみた結果、その平均マップと同じ脳の人はほとんどいなかったなど、興味深い例を用いて、いかに我々が「平均」という言葉に騙(だま)されているかが、説得的に語られる。

 そして、この平均に対する過度の信仰は、単に人々のイメージの問題だけではなく、教育制度や企業の採用現場においても大きな問題を生じさせているという。この点は、平均を用いて作り出される偏差値という数字に、大きく振り回されている日本の教育現場においても、まったく他人事ではないだろう。

 平均を重視することが問題なのは、本書が「バラツキの原理」と呼ぶ構造があるからだ。例えば、どちらの人が大きいかを判断するのに、身長だけをみれば良いかといえばそうではない。身長が高くても痩せていれば、大きいといえなくなる。このように評価のポイントは多数ありそれぞれにバラツキがある。それを無理に一つの評価軸の高低で判断しようとすると大きな間違いをおかす。

 この点は、知性を評価する際にも問題となる。しばしば、あの人は頭が良いなどと表現し、ある分野の知性で優れている人はすべてにわたって優れていると考えがちだ。しかし現実には、知性にも多様な評価ポイントが本当は存在し、すべてが同じ動きをするとは限らない。知性や才能の多様性をもっと重視せよという主張は多くの人に勇気を与えるだろう。小坂恵理訳。

 ◇Todd Rose=ハーバード教育大学院で心/脳/教育プログラムを主宰する心理学者。「個性学」の推進者。

 早川書房 2200円

読売新聞
2017年7月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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