<東北の本棚>応仁の乱でスギ需要増

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森の日本文明史

『森の日本文明史』

著者
安田喜憲 [著]
出版社
古今書院
ISBN
9784772281171
発売日
2017/04/05
価格
6,050円(税込)

<東北の本棚>応仁の乱でスギ需要増

[レビュアー] 河北新報

 日本を代表するスギやブナ、アカマツなどを樹種別に取り上げ、文明とのかかわりを考察した。各地の遺跡で遺物を花粉分析、調査データを基にした。著者は名取市在住で、国際日本文化研究センター(京都市)名誉教授。環境考古学の提唱者だ。
 鳥浜貝塚(福井県)では、1万年以上前の縄文時代草創期にスギの板材が存在することが分かった。出土した木材製品の30%近くをスギが占める。鳥浜貝塚周辺は特にスギの多かった地域で、他の縄文遺跡では15~20%程度になっている。弥生時代になるとスギ利用は低下。奈良時代、平城京などの造営ではヒノキやコウヤマキが使われた。都市の発展でスギが多用されるのは13世紀以降という。応仁の乱で壊滅的打撃を受けた京都では、復興のため木材需要が急増した。背景にノコギリ技術の革新があるという。
 ブナ林が拡大したのは、気候変動で1万6500年前に始まる日本海側の多雪による。落葉広葉樹が縄文文化を育み、土器が出現した。これが「日本文明の原点となった」と言う。しかし太平洋戦争後、「ブナはカネにならない」と伐採され、跡地にスギやヒノキが植林された。縄文文化の見直しや水源かん養の観点から「ブナを守れ」と市民運動が展開され、白神山地は世界遺産となった。これを機にブナに対する国民の価値観は大きく転換した。
 著者は1946年三重県生まれ。東北大大学院理学研究科修了。現職は「ふじのくに地球環境史ミュージアム」(静岡市)館長。富士山とともに世界遺産になった三保の松原を例に、農薬の空中散布によるマツ枯れ対策を批判する。
 古今書院03(3291)2757=5940円。

河北新報
2017年7月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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