<東北の本棚>若者の成長丁寧に描く

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<東北の本棚>若者の成長丁寧に描く

[レビュアー] 河北新報

 仙台で暮らす国見俊亮は、地元の大学で一緒だった親友・落合数彦の墓参りに訪れた。卒業して6年。若くしてこの世を去った数彦の死因は自殺とされているが、俊亮は納得していない。数彦に会い真相を聞く方法を探し始める。
 俊亮の恋人・鳳條(ほうじょう)絹子は幼い頃から母親と折り合いが悪く、伯父・晶観(しょうかん)の養子となった。晶観が住職を務める寺で育った絹子にとって、あの世の話は身近な話題だ。死後の世界や霊について書かれた本「あの世学原論」が数彦と話す手掛かりになると考え、俊亮と本を探す旅に出る。
 大学卒業後、上京したが窮屈な仕事に辟易(へきえき)した俊亮。仙台に戻ってからは気が向いたときだけ働き、社会と距離を置く。絹子は暴力を振るう母親との関係に悩み、俊亮との結婚に踏み切れない。
 「あの世学原論」を探すうち、俊亮は社会や数彦に、絹子は母親に抱く感情を少しずつ整理していく。紆余(うよ)曲折を経て、2人が一つの結論にたどり着くまでの心の動きを丁寧に描いている。
 過去にとらわれず、一度きりの人生をどう生きるか。若者の成長物語ではあるが、わが身に置き換えて考えさせられる。
 著者は1950年東京都生まれ、仙台市在住。
 東京図書出版03(3823)9170=1404円。

河北新報
2017年7月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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