木の国の物語 中嶋尚志 著

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木の国の物語 中嶋尚志 著

[レビュアー] 塩野米松(作家)

◆美の背景に風土、権力

 法隆寺や東大寺、銀閣寺、伊勢神宮などを訪ねると安堵(あんど)を覚える。日本人だからと思うだけで、この感覚がどこからくるものなのか考えたことはなかった。

 平成二十六年に日中韓の宮大工の棟梁(とうりょう)が集まり、シンポジウムが行われた。それぞれが道具や建材、建造物の特徴などを話してくれた。中国はかつて楠木(なんぼく)、今は韓国と同じ松、日本は檜(ひのき)を使ってきた。それぞれ適した道具の使い方がある。中韓は材が硬いから鉋(かんな)や鋸(のこぎり)を押し、日本は引く。大陸伝来の技術だが、風土の中で違う道を歩んだ。檜という材が職人の気質を生んだ。日本の美はこうして育まれたのでは、と話を聞きながら思った。

 この本の著者は、日本の木造建築の美はどこから生まれたのか、縄文の三内丸山遺跡から飛鳥の建築、平安貴族の寝殿造り、その後の書院造り、巨大な東大寺、幻の出雲大社、各地の城、日本の名宝桂離宮と代表的な木造建築の美の根源を探っていく。当時の政治風土や権力の構造、匠達や檜を送り出した土地を訪ね、関係文献や論文を読み込み、変遷してきた木の文化の背景をあぶり出していく。

 誰のためでもなく、著者は自らが抱えた疑問を解決するために、迷路のような森の中を渉猟(しょうりょう)する。その手順が読み手を引きずり込み、そうだったのかと納得させてくれる。膨大なデータが溢(あふ)れる現代、労を惜しまない著者の仕事に感謝だ。
(里文出版・1728円)

<なかじま・しょうじ> 1944年生まれ。元編集者。著書『「美しさ」を探求する』。

◆もう1冊 

 鈴木三男著『日本人と木の文化』(八坂書房)。クリの巨木建築、農具、丸木舟などから縄文以来の木の文化を考察。

中日新聞 東京新聞
2017年7月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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