ポイントは「自由な個性」。オックスフォード大学に学ぶ、子どもの「創造性」を育む方法
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『オックスフォード式 超一流の育て方』(岡田昭人著、朝日新聞出版)の著者は、東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。学生時代は日本型の教育になじめなかったものの、「新しい自分になりたい」という思いから留学を決意、最後にたどり着いたオックスフォード大学に大きく影響されたのだそうです。
オックスフォード大学といえば、数々の偉人たちを育て上げてきた名門ですが、その魅力は「自由な個性」にあるといいます。各々の学生たちが持つユニークな個性を発見し、それを最大限に引き出す教育を与えることこそが、同学の使命だというのです。なお著者が考える自由な個性とは、型にはまった考え方や常識を突き破り、自由な発想と探究心をもって新しい視点を切り開いていこうとするしなやかな性質、そして強い精神なのだとか。
そんな著者は、オックスフォード大学が大切にしている「自由な個性」を、次の5つに分解して紹介しています。
「問題発見力」=社会に隠された問題を発見し解決する力
「コミュニケーション力」=会話を通じて誰とでも意思疎通をはかる力
「リーダーシップ力」=他者の先頭に立ってリードする力
「創造性」=イノベーション(革新)を生み出す力
「寛容性」=愛とやさしさで人々を抱擁する力
(「プロローグ」より)
そしてこれらを軸としたうえで、著者は「子育て」に焦点を当てています。オックスフォード大学の精神を生かしつつ、日常の子育てのなかのちょっとした学習の工夫で、簡単に子どもの「自由な個性」を開花させる方法を紹介しているのです。きょうは「創造性」に焦点を当てた第4章「超一流の『創造性』を育む」に焦点を当ててみましょう。
想像力の「種」をまく
子どもは日々の遊びのなかで想像力を培っているもの。なにかを想像する力は、「これから先、なにが起こるのか」「遊んでいる相手がどう感じているか」を見通すことができる力でもあると著者は記しています。
ところが子どもの素晴らしい想像力の枝が伸びた瞬間に、「なにを夢みたいなことをいって!」などと、それを切り落としてしまう大人がいるのも事実。しかし親が大人の考え方で判断し、子どもの感覚を否定してしまうと、想像力の枝を伸ばしていた子どもは、当然ながら次の言葉が出なくなってしまいます。
子どもは、「自分の発想が他人にどう受け止められるのか」「自分の言葉が他人にどのような影響を与えるのか」にとても敏感。自分自身のオリジナリティのある発想を周囲から認められると大喜びし、次になにか人を驚かせるようなものを考え出したいと思うわけです。そして大きな創造の基盤となる想像力は、子どもが将来社会に出たときに必要不可欠な力になるものでもあります。そこで著者は、想像力の「種」まきをしましょうと提案しています。
それは子どもが想像することの楽しさを知り、自分で考える意欲を育てる習慣を身につけさせることです。そのためには大人は子どもに対して適切であたたかい声がけをすることです。
子どもは発想力が豊かですが、それを表現できるかできないかは大人の声がけによって変わってくるのです。(175ページより)
たとえば子どもがクレヨンを持ってお絵描きをしようとしているなら、「自由に描いていいよ!」というひとことが大きな意味を持つということ。描き終わったころに「それなに?」と聞いてあげると、適当に描いたものでも「りんご」などと答えてくれるようになるはず。そして、それが繰り返されると、子どもの想像のなかで「あれを描こう」という目的を持って描くことにつながっていくというのです。
子どもの発想や行動に対し、「おもしろいね」「「すごいね」という、なにげない大人の声がけが子どもの想像力を伸ばすということです。(172ページより)
子どもの「個性」にほれる
「個性」とは、それぞれの人の中にある「性質」のようなもの。生まれ持っている気質だけではなく、成長過程の環境、青年期以降の自己意識によっても形作られていくとされるのだそうです。他の人が簡単につけたり、外したりできるものではないわけです。
どんな親でも、自分の子どもの個性や長所を伸ばしてあげたいと思うものです。ところが知らず知らずのうちに、かけがえのない個性の芽を潰している場合も少なくないと著者は指摘しています。そして、子どもの個性を発見し、伸ばすためにいちばん大切なのは、自分の子どもの個性に「ほれる」ことだとも。
子どもは周囲の人たちと触れ合う機会が増えるに従い、少しずつ個性がはっきりしてきます。そして、ここで重要なのは、個性は見方によって長所にも短所にも見えるということ。親の目から見て「ちょっとわがままで、まわりに対する心遣いが欠けている」ように思えても、実は「積極的で活発」なタイプだったりするわけです。逆に引っ込み思案な子どものなかには、「じっくり考えて行動する」面があるとも考えられるでしょう。
子どもは自分に自信が持てたときに、はじめて個性的に生きられるのです。そうなるためには、親はできるだけ子どもの個性を肯定的に捉え、ひたすら愛情を与えてあげるのです。つまり自分の子どもに「ほれる」ことが個性豊かにするのです。(184ページより)
つまり子どもは、幼い時期にたくさんの愛情を受けるほど、「自分は大切な存在だ」と思い、自信をつけていくということ。周囲の子どもと多少違っていたとしても、親が大切に思っているということを伝えることで、子どもは自分の価値の大きさに気づき、それが個性的に生きる出発点になるというのです。(181ページより)
リビングにホワイトボードを置く
著者は、なにげなくホワイトボードをリビングに置いておいたら、子どもがなんでも書いてしまうので驚いたことがあるそうです。ちなみに教育学などの研究でも、自宅の居間で勉強して学力を向上させる「リビング学習法」が注目を集めているのだとか。「部屋でひとりで勉強するより、まわりから見られているほうが学習意欲が高められる」など、さまざまな心理的効果があることがわかってきているというのです。
そもそも子どもは、ホワイトボードになにかを書くことが大好き。そこで、ホワイトボードを学習にも活用してみることを著者は勧めています。といっても簡単なことで、ホワイトボードを家のなかで家族がよく集まる場所に置いておくだけ。そのホワイトボードを見るだけで、次の3つの利点があるそうです。
1. 興味や関心がわかる
書いている内容によって、子どもがなにに興味や関心を持っているのかが理解できるということ。たとえば電車や車などの乗り物、星や虫などの自然、数字や文字が示す知識など、さまざまなことが一目でわかるわけです。
2. 会話が豊かになる
書いてあることについて子どもが話し、それに対して親が感想を話すことで、会話も広がることに。たとえば子どもが「てがみ」という言葉を書いていたとしたら、「誰に出すの(もらったの)?」「なにについての手紙かな?など、内容だけではなく絵なども描かせながら話を膨らませていくことが可能に。
3. 思考が広がる
他の人が書いたものに自分で書き足したり、自分で書いたものに他の人が書き足したりすることで、ストーリーの展開や思考が広がるということ。子どもが「リンゴ」の絵だけ描いていたなら、矢印をつけてしりとりのように「ゴリラ」を描けば、次は子どもが「ラッパ」と書き加えるなど、楽しみながら発想を広げることができるわけです。
また、著者はホワイトボードを使って見た結果、子どもは「自分が誰かに教えているほうが物事を覚えやすい」ということに気づいたのだそうです。子どもは「誰かに教える」ことで、「わかりやすく伝えよう → 自分でもわかるようになる」という習慣が身につくということです。
その場合、親であっても「生徒」の立場になるので、「先生」である子どもに質問するときは敬語を使ったりすると、子どもはとても楽しく喜びながら教える経験ができるといいます。(195ページより)
オックスフォード大学ならではの「自由な個性」を、子育てと結びつけて考えている点が非常にユニーク。だからこそ興味深く読むことができ、強い説得力を感じさせもします。前向きな子育てを実践するためにも、読んでおきたい1冊です。