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さらばフロスト!夏の中年警部祭り
[レビュアー] 若林踏(書評家)
仕事と下ネタを心から愛し、犯罪と嫌味な上司を心から憎んだ男、ジャック・フロスト警部。イギリスの作家、R・D・ウィングフィールドが生み出した型破りな刑事、フロスト警部の活躍も第六作『フロスト始末』(芹澤恵訳)でついに見納めだ。
強い雨が降り注ぐデントン市の森で、飼い犬がとんでもない物を咥えてくる。それは切断された人間の足首だった。人手不足のためにしぶしぶ現場へと向かったフロストだが、今度は十五歳の少女が強姦されたという通報が入る。さらにはスーパーの商品に毒を入れたという脅迫やら、十二歳の少女が行方不明になるやらで、フロスト警部の周りはたちまち物騒な犯罪で溢れかえってしまった。
複数の事件を並行して描き、登場人物たちのドタバタぶりを活写する手法は最終作でも相変わらず。しかし本作で事件以上にフロストを悩ませるのは、新たにデントン署に着任したスキナー主任警部だ。面倒なことは部下に押しつけ、手柄だけは己のものにするという、いけ好かない上司の典型というべきスキナーは、同じく上昇志向の塊であるマレット署長と意気投合、あの手この手でフロストをデントン署から追放しようと画策する。この強敵の出現によるためか、フロストの破天荒ぶりも下品なジョークもパワーアップ。ミステリ史に残る名警部、最後の大暴走をしかと見届けよ。
フロストのような強烈な個性を持つ中年警部が好き、という方にはコリン・デクスター『ウッドストック行最終バス』(大庭忠男訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)もぜひどうぞ。クロスワードとクラシック音楽に目がないモース主任警部が、次々と大胆な仮説を立てては行き詰って悶絶する、愉快で知的興奮に満ちたパズル小説である。
日本代表では赤川次郎の創造した大貫警部を挙げておく。『百鬼夜行殺人事件』(講談社文庫)などに登場する大貫は、大食漢で頓珍漢な推理ばかりを披露する困った刑事。国内ミステリにおける究極のダメ人間を選ぶとしたら、間違いなく彼が筆頭候補になるはず。