『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』 佐々木健一著

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Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男

『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』

著者
佐々木 健一 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163906737
発売日
2017/06/19
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』 佐々木健一著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

墜落原因解明した学者

 まるで映像作品を見ているかのように、一人の天才的な研究者の辿(たど)った軌跡が描かれるノンフィクションである。

 本書の主人公・藤田哲也は、気象学の世界に革命的とも言える発見をもたらした人だ。30代でアメリカにわたり、日本では竜巻の規模を表す国際的な尺度「Fスケール」を考案したことで知られるが、彼には「世界中の空を救った」と言われるもう一つの偉業がある。それが地表近くで急激に発生しては消える下降気流「ダウンバースト」の発見だった。

 1970年代、航空業界は離着陸時の謎の墜落事故に悩まされていた。藤田は原因不明だったその怪現象の原因を解明。主要空港に対策のレーダーが配備されたことで、空の安全は飛躍的に向上した。いわば彼の業績は、いまもなお私たちの安全に寄与し続けているわけだ。

 本書で著者はこれまであまり知られていなかった藤田の生涯を掘り起こし、その数奇で気骨溢(あふ)れる研究の日々を描いた。日本とアメリカを行き来して親交のあった人々を訪ね、彼の姿を多面的に浮かび上がらせる取材は丹念で裾野も広い。社会のため人のための研究とはどのようなものであるかというテーマが、一人の科学者の進んだ道程から照らし出されてもいく。

 様々なエピソードに私は何度も胸が熱くなり、「この研究者の物語を多くの人に知ってもらいたい」と思った。例えば藤田は45年8月、原爆投下直後の長崎を調査で訪れている。その際に爆風で倒れた木々や建物の分析から爆心地と爆発高度を割り出した経験が、謎の下降気流の発見につながる。後に学者間で大論争を巻き起こし、多くの批判に遭いながらも自説を貫いたその姿からは、研究者は孤高であれ、というメッセージが色濃く伝わってくる。

 現場と自らの信念に足場を置いた一人の偉大な気象学者――その実像に確かな光を当てた読みごたえのある人物評伝だ。

 ◇ささき・けんいち=1977年生まれ。テレビディレクター。『辞書になった男』で日本エッセイスト・クラブ賞。

 文芸春秋 1800円

読売新聞
2017年7月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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