『すごい進化』 鈴木紀之著

レビュー

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『すごい進化』 鈴木紀之著

[レビュアー] 塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

雄と雌いる訳に新仮説

 かつて昆虫少年だった人には、正統的な進化論に反対する人が多い。ファーブルがまさにそうだったし、テレビや一般向けの出版物を主舞台とするタレント学者にもそういう人が多い。そのため、ダーウィニズムは今日否定されていると誤解している方も多いだろう。

 しかし生物学の現場では、正統派進化論の正しさはますます確かとなっている。本書はその正統的進化論の立場から、一見すると説明の難しそうな現象を多数取り上げ、適応というキーワードからそのからくりを説いてみせる。著者自身の専門の関係で、昆虫の実例が非常に豊富なのが特徴である。あまりに多様な例を矢継ぎ早に繰り出すので、読者の側で混乱するのではないかと心配になるほどだ。また本文中、擬人化した表現を比較的無頓着に使っているため、読者によっては生物が自身で進化の方向を選んだと誤解しないか、心配な箇所も少なくない。

 そういう瑕瑾(かきん)はあるが、新進気鋭の著者ならではの勢いのある文体は魅力的だし、性の進化に関する新仮説は、これだけで他の短所を払拭するインパクトがある。

 性の進化の問題とは、なぜ、多くの生物に性があり有性生殖をするのか、という疑問である。日本のヒガンバナがやっているようなクローン繁殖に比べると、有性生殖は無駄が多い。オスとメスの両方が必要だし、両者の繁殖のタイミングや好みも合致する必要があり、まだるっこしい。この疑問についてこれまでは、有性生殖では遺伝子セットが多様化しやすい、といったメリットに焦点を当てての説明が試みられてきた。しかし決定打に欠け、議論は止(や)まない。

 それに代わり本書で紹介される新仮説は、逆転の発想だ。すなわち、オスというものが偶々(たまたま)進化してしまうと、それによる有性生殖を排除できず、なんと「オスがいる限り、性というシステムが『仕方なく』維持される」のだという。その理屈と検証についてはぜひ本文を!

 ◇すずき・のりゆき=1984年神奈川県生まれ。専門は進化生態学、昆虫学。現在は米国で研究。

 中公新書 860円

読売新聞
2017年7月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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