『語る藤田省三』 竹内光浩ほか編

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語る藤田省三 : 現代の古典をよむということ

『語る藤田省三 : 現代の古典をよむということ』

著者
本堂 明 [著]/武藤 武美 [著]/藤田 省三 [著]/竹内 光浩 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784006003630
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『語る藤田省三』 竹内光浩ほか編

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

古典を読み、考える

 「現代」としての二十世紀を見つめながら、独自の思索を展開した政治思想史家、藤田省三。その人が一九七〇年代から八〇年代のはじめにかけて、若い世代を相手にした小さな読書会や、講演などで語った言葉を収めた本である。

 二十年前だったら、ハードカバーの四六判の書籍として刊行されたことだろう。しかし問題の表面から深層まで、多くの次元にわたる考察が凝縮した藤田の文章に比べると、ここに記された語り言葉は、軽快なリズムが思考の運動を生き生きと伝えていて親しみやすい。オリジナルの文庫という形が、むしろふさわしいかもしれない。

 「私はもうお迎えが来る歳だけれども」と、まだ五十一歳のときに話しているのに驚かされる。しかしこれは、「全てが客体化した時代」としての現代に対する絶望の深さゆえの発言なのだろう。身のまわりの世界の全体を関係づける意味のつながりが断ち切られ、個々の人間も物事もばらばらになったまま、グローバル市場の運動と、国家の巨大な権力作用とに飲みこまれてゆく時代。

 しかしそれだからこそ、一人一人が古典を読みながら考える営みにこだわる。この本では、荻生(おぎゅう)徂徠(そらい)、森鴎外、ジェイムズ・ジョイス、サミュエル・ベケットなどのテクストをめぐる、藤田の読みの技が存分に展開されている。それを追うことで、読書会にともに参加しているような気分を読者も味わうことができる。

 破壊された世界を救済する「超越者」を求めれば、権威主義による凶悪な支配を、「現代」では呼び起こしてしまうだろう。左右の全体主義が政治の世界に広がり、大量の「亡命者」を生み出した二十世紀の歴史が黙示する教訓である。

 これに対し、人間の理性がかすかでも輝きだす可能性に賭け、「超越者なしの超越」をめざして現実を克服してゆくこと。小さな読書会はそのまま、人類史の遠いかなたのユートピアを構想する営みでもあった。

 ◇ふじた・しょうぞう=1927~2003年。日本の思想史家・政治学者。著書に『天皇制国家の支配原理』など。

 岩波現代文庫 1400円

読売新聞
2017年7月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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