『キングダム最強のチームと自分をつくる』
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「これが将軍の見る景色です」。マンガ『キングダム』に熱狂したYahoo! アカデミア学長が書いた本
日本興業銀行、プラス株式会社を経て、現在はヤフー株式会社の「Yahoo!アカデミア学長」として次世代リーダー育成を行っている伊藤さん。そんな伊藤さんが大人気コミックス「キングダム」の41の名シーン&名セリフを通して、夢、挑戦、勇気、決断、チームワークなど、「仕事の本質」を伝える一冊を上梓しました。伊藤さん初の著書となる本書についてお聞きします。
――これまで、各方面から書籍のオファーがあったそうですが、すべて断られていたとお聞きしています。このたび本書の執筆を決断されたのは、どのような想いからでしょうか?
そうですね、Web記事やテレビなどに出演することは多々あったものの、“本を書く”ということがどういうことか、よくわからなかったんですね。また、「形に残る」ものを作るということの恥かしさがものすごくあって。いまだに、自分はまだ何もしていない、何を成しているわけでもないという意識があるんです。
それに私は、“スタジオミュージシャン”か“ライブミュージシャン”かというと、圧倒的にライブミュージシャン、もっといえば“ストリートミュージシャン”タイプ。人々と顔を合わせて熱く話すことは好きなのですが、本という形は自分に合わないだろうと思っていました。
ですが、私の愛してやまない『キングダム』を主役にして、そこに私の思想を乗せるという本書の企画を担当編集者の米田さんにいただいたときに、「それなら」と前のめりになったんです。
――これだけのキャリアをお持ちの伊藤さんが「自信がない」というのは意外ですし、非常に謙虚でいらっしゃることに驚きます。
本書を書いている間にも「俺なんかが書いていいんだろうか」という葛藤があったのですが、完成して本屋に並んだ本書を見た瞬間に、「この本に関わってくれている人がたくさんいるんだ」と気づいて。「恥ずかしいなんて言っている場合じゃない」と、今はやみくもに宣伝しています。もう、社内でサイン会だって何だってしますよ。(笑)
本書の内容も、私が講演やセミナー、Yahoo!アカデミア、客員教授として教えているグロービスのクラスなどで年がら年中話していることですから、それを遠くの人々にまで届けられる、とても素晴らしい手段じゃないかと今は感じています。
――特に読んでほしい章や部分などはありますか?
まずは、帯にも採用されている「これが将軍の見る景色です」というセリフですね。私は普段から「キングダムによれば○○○○だ」と引用して話すこともあるのですが、このセリフは、Yahoo!アカデミアのプレゼンテーション大会で決勝に進出したプレゼンターたちに語ったことのある印象深い言葉です。擬似的にでも「リーダーが見る景色」を経験していることは、後に活きます。リーダー育成とチームビルディングについてまとめたこの本のイメージが、まさにこの言葉に集約されているとも感じています。
もうひとつ挙げるとすればP166 の「人の持つ本質は――光だ」というセリフ。これは私の思いと一致するとても大切な言葉なのですが、説明しようとするとものすごく難しかったんです。
悩みに悩んで、途中で「やっぱりうまく書けないから、この項目は削除しようか」と米田さんと話したりもしたのですが、何度も何度も書き直して最終的に自分でも納得いくものに仕上がりましたし、感想を聞くと多くの人に共感をいただけたようです。非常に思い入れのある項ですね。
――初めての本ということもあり、苦労された点も多かったのでは?
そうですね。物理的に、キングダムのセリフと自分の考えていることをマッチングさせることは、簡単なようで難しかったです。一個一個なら比較的簡単なのですが、それをまとめて一冊を通してひとつの大きなストーリーを作り上げるという作業が……筆舌に尽くしがたい苦しみでしたね。
読み返してみると、「これ、キングダムに名を借りた伊藤本じゃないか」と恥ずかしかったのですが、逆にそっちに振り切って良かったかなと。
――キングダムの解説と伊藤さんご自身の経験や思想など、バランス良く書かれていると思います。
そう感じていただけると嬉しいです。実は、本書の最初の方はセリフの解説を中心にしてあまり自分の主張を入れないようにし、後半にかけて徐々に自分の意見や思いを多く入れ込んでいくという構成にしているんです。
そうして最後の「人の世をよりよい方向へ進めるのが為政者の……君主の役目ではないのか」というセリフに、私の思いをすべて込めることができたと思っています。
純粋なキングダムファンからすると、だいぶ解釈を変えているな、と感じる部分もあるかもしれません。それに、直球ばかりで、深みがない、と感じられる方もいるかもしれない。ただ、何かしら生き方の方向性を探しているビジネスパーソンにとってはきっと得るものがあると思いますし、キングダムを読んでいない人でも楽しめる本になっていると思います。
――SNSなどにも、「マンガは読んだことがなかったけれど、興味がわいて読みはじめました」「これは読むエナジードリンクだ」といった熱い感想が上がっています。
本当ですか、嬉しいですね。
なにしろすべてが初めてだったので、「これでいいんですかね?」と尋ねても、米田さんは飄々とした人だから「いいですよ」としか言わないので常に不安で。(笑) その反面、こちらの要望はほとんど聞いてくれたので、そこはありがたかったですね。編集者とのやり取りはもちろん初めてだったので、そのプロセス自体が勉強になりました。
本作りというのはアナログな作業で、「紙で出てきたものをチェックするんだ。ドラマの“校閲ガール”で見たとおりだな」なんて新鮮に感じましたね。
出版直後は「もう本を書くのは懲り懲りだ」なんて思いましたが、今はむしろ、話すべきことがあるのならばまた書かなければいけないな、という使命感も生まれています。一冊作ったことで、ハードルがなくなったかもしれません。
――ご多忙の中、年間500冊以上のマンガを読み続けているというマンガフリークの伊藤さんですが、最後に、マンガ以外のジャンルも含めて、オススメの本を一冊お教えください。
ビジネス書になりますが、全ビジネスパーソンに薦めたいのが、弊社の本間浩輔が書いた『ヤフーの1on1―-部下を成長させるコミュニケーションの技法』(ダイヤモンド社)。ひいき目なしでこれは名著です。ほかの小難しい理論の本を読むんだったら、これを読んで1on1やってみようよ!と言える、極めて実践的な本ですね。
それから、もう一冊。自分がビジネスをする際に非常に勉強になったのが内田和成先生の『仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法』(東洋経済新報社)です。これは10年ほど前、私がまだまだビジネスパーソンとして未熟な時期に読んで「ものごとってこういう風に考えていくものなのか!」と激しいショックを受けました。好きすぎて、自宅と会社に一冊ずつ置いておき、いつでも読めるようにしていたくらい。自分のビジネスパーソン人生に大きな影響を与えた本です。
非常に示唆に富んでいるのに、難解な言葉を使わずに書かれていて心にスッと入ってくる。そこに感銘を受けて、私も今回の本では難しい表現を一切排除しようと心がけました。文体が柔らかで簡単すぎて、周囲からは「中学生くらいの子どもに向けて書いたの?」と言われるほどですが、それは狙い通りかなと思っています。ビジネスマンだけでなく、あまり本を読まない層やあらゆる世代の人々に読んでもらえれば嬉しいですね。