【話題の本】『せいきの大問題 新股間若衆』木下直之著

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せいきの大問題

『せいきの大問題』

著者
木下 直之 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103321323
発売日
2017/04/27
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【話題の本】『せいきの大問題 新股間若衆』木下直之著

[レビュアー] 黒沢綾子

 ■目を背けてはならない!?

 男性の裸体彫刻-とりわけ曖昧模糊(もこ)とした股間の表現に目を向け話題になった奇書『股間若衆』刊行から5年。やはりというか、続編は『新股間若衆』だ。ダジャレを炸裂(さくれつ)させる著者は東大大学院教授。全国各地の駅前や公園などに立つ若衆(男性像)の股間観察も、立派な研究である。

 今回は男性像に限らず、日本美術が「下半身」をどう扱ってきたか、「わいせつか芸術か」という議論はいかに生まれたのかなど、幅広く「せいきの問題」を解き明かしている。パリ留学から戻った黒田清輝の裸体画に対し、描かれた下半身を布で覆った「腰巻(こしまき)事件」がその端緒という。

 今、黒田の裸体画をわいせつだと断じる人はほぼいないだろう。明治維新を経て厳しく取り締まられた春画も、近年は美術館で展示されるまでになった。

 自らの性器をモチーフにした作品をめぐる裁判、いわゆる「ろくでなし子裁判」に対し著者が一昨年、東京地裁に提出した意見書も収録。著者の指摘通り「わいせつか芸術か」は普遍的で自明な物差しにはなり得ず、不毛な議論だ。ただ、性表現について考察する機運は高まっている。股間から目を背けてはならない。(新潮社・1800円+税)

 黒沢綾子

産経新聞
2017年7月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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