夢から覚めた夢――『俺たちはそれを奇跡と呼ぶのかもしれない』著者新刊エッセイ 水沢秋生
エッセイ
『俺たちはそれを奇跡と呼ぶのかもしれない』
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夢から覚めた夢
[レビュアー] 水沢秋生(作家)
物語はどこからやって来るのか?
それほど頻繁にというわけでもないし、あまり突き詰めて考えるとおかしなことになりそうなので意識的に遠ざけている部分もあるが、それでも小説を書いている以上は、避けては通れない問いである。
この問いについて、ある小説家は「人工遺物だ」と言うし、別の誰かは「綿密な思考の結果」と断言する。
正解はひとつではないとは思うが、新刊『俺たちはそれを奇跡と呼ぶのかもしれない』について、その答えは簡単だ。この小説は、夢の中からやって来た。
具体的にはっきり覚えているわけではないが、ある日、嫌な夢を見た。その夢の中には、なにがどうとは言えないが、非常に「嫌なもの」がいた。
だが、夢である以上、それは必ず覚める。そうして目を覚ましたとき、その「嫌なもの」はまだ、枕元にじっとりとうずくまっていた。
つまり、「夢から覚めた夢」を見ていたのである。
「夢から覚めた夢」もまた夢である以上、必ず覚めるわけで、その次に目を覚ましたとき、幸いなことに「嫌なもの」はすでに去っていたのだが、しかしそのときの恐怖感は簡単に忘れられるものではなかった。
もしかして、これもまた「夢から覚めた夢から覚めた夢」ではないのか? その感覚は一日中ついて回った。
考えてみれば、「そうではない」と断言できる根拠はどこにもない。
この小説の主人公はある日、見知らぬ部屋で見知らぬ人物として目覚める。そして眠り、目覚めるとまた、別の人間になっている。
ところで今、これをお読みのあなた。
この瞬間は、本当に現実ですか?