『永遠の道は曲りくねる』
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永遠の道は曲りくねる 宮内勝典 著
[レビュアー] 与那覇恵子(東洋英和女学院大教授・近現代日本文学)
◆人の悲惨な営為を見通す
私たちが生きている世界は、夥(おびただ)しい殺戮(さつりく)の歴史の産物である。七十カ国を巡り、アメリカ先住民とも暮したことのある宮内は、そんな地球という水惑星の動きを、一神教の神の働きではなく、自然と人の営みとしてとらえようとする。本書には先住民のスピリチュアルな言葉とともに、詩人や宗教者、革命家に物理学者などの残した夥しい言葉がちりばめられており、読者もそれらの言葉との対話を通して思索の旅を味わうことができる。作者の代わりに観察者となって「世界の切っ先まで見切ろう」とするのは、『ぼくは始祖鳥になりたい』や『金色の虎』で世界各地を遍歴してきたジローこと、三十二歳になった有馬次郎である。
エルサレムで出会った世界的新興教団のブレーンだった田島の誘いを受け、沖縄の精神科病院で働く有馬はユニークな経歴の者たちと出会う。元全学連のリーダーで院長の霧山、霊的力で心の病を癒(いや)すユタ(民間霊能者)の乙姫さま、アメラジアンの七海とアタル、アフガンで捕まり米軍基地に軟禁されている四つの名前を持つジェーン。
生き辛(づら)さを抱えている個の背後に存在する、侵略された琉球や沖縄の歴史だけでなく、大国に翻弄(ほんろう)されてきた北米、メキシコ、アフリカ、中東などの少数民族の傷ついた土地の歴史も織り込まれる。さらに世界の聖地で平和の祈りを捧(ささ)げる祝祭を開いてきた十三人のグランマザーと呼ばれるシャーマンたちが、沖縄のガマ(洞窟)で語る自らの悲惨な歴史は、土地に根ざした霊的パワーの喪失を浮かび上がらせる。
しかし、一つの希望もみえる。有馬に連れられ米軍の追跡を逃れたジェーンは、水爆に汚染されたマーシャル諸島で出産を決意する。そのことを寿(ことほ)ぐかのように死の海に一瞬現れた海亀。一つの国や民族に帰属しない「雑種」のジェーンは、自らはイヴのアラビア語名ハワァを名乗っている。
新しい人類の始祖、つまりミトコンドリア・イヴの誕生を予感させる。
(河出書房新社・1998円)
<みやうち・かつすけ> 1944年生まれ。作家。著書『焼身』『魔王の愛』など。
◆もう1冊
崎山多美著『うんじゅが、ナサキ』(花書院)。夢と現実の間を行き来しながら、独特の言語感覚で沖縄の厳しい現実を描く連作集。