介護方法とミステリーが融合した意欲作『フォークロアの鍵』川瀬七緒

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フォークロアの鍵

『フォークロアの鍵』

著者
川瀬 七緒 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062205771
発売日
2017/05/17
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

介護方法とミステリーが融合した意欲作

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 羽野千夏は「口頭伝承」を研究する民俗学を専攻する大学院生である。老人になっても記憶の中にある最後まで消えない凝縮された文化を調査するため、杉並区藤ノ森緑地にある認知症のグループホーム「風の里」で入居者に話を聞くためにボランティアとしてやってきた。

「風の里」は大手の老人介護民間会社『風紋』グループの一形態で、要介護2から4の老人たちが暮らしている。ボランティアと援助専門職の力を借り、日常の生活は入居している老人たちが出来る限り協力して賄っている。

 症状は様々だ。物を盗られたと騒ぐ老婆、女性のお尻を触る紳士、外国から攻撃を受けていると信じる者、毎日郵便局で20円だけ貯金する者、徘徊癖のある老婦人。介護者は彼らを同じように扱おうとするが症状はバラバラで、何かとトラブルが持ち上がっている。

 夕方になると施設からの脱走を試みる老女ルリ子は、アルツハイマーの症状が進み、ほとんど意思の疎通ができない。だがあるとき彼女が恐ろしそうに口にした「おろんくち」という言葉を千夏は調べ始めた。外に出たいという欲求はどうやらそこに秘密があるようだ。私立高校をドロップアウトした少年、大地とホームの老人たちとで謎解きが始まった。

 些細なことが老人たちの記憶を呼び覚ます。昔取った杵柄は錆びついてはいない。認知症であろうが彼らは人格を持っている。

 待ったなしの高齢社会。介護の様々な試みが模索されている。認知症の患者は、何もわからなくなっているのではない。きちんと話を聞くと、驚くほど理解していることが証明され始めている。新しい介護方法とミステリーを組み合わせた意欲作だ。

光文社 小説宝石
2017年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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