慈しみ合いつつも崩壊していく家族『星の子』今村夏子

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

星の子

『星の子』

著者
今村 夏子 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784022514745
発売日
2017/06/07
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

慈しみ合いつつも崩壊していく家族

[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)

 子どもは親を選んで生まれてくるという説と、子どもは親を選べないという説、どちらが本当なのだろうか。ただ言えるのは、子どもは誰でも、自分ではどうにもできない星のもとに生まれてくるということ。みなが〈星の子〉なのだ。

〈わたし〉ことちひろは、ちひろの健康を案じ、水を崇める宗教にのめり込んだ両親を持つ。姉のまーちゃんや雄三おじさんは、〈宇宙のエネルギーを宿した〉水を飲んだり、水に浸したガーゼを頭や患部に載せたりする儀式を怪しむけれど、ちひろは両親の望むままに集会にも出席し、水も飲む。引っ越すたびに質素な家になっていくことにも気づいているが、愛情深い両親への感謝も、家族がこうなった要因は病弱だった自分ではないかという自責の念も、持っているからかもしれない。

 著者は既出作でも機能不全家族の中で育つ少女を主人公に据えてきた。これまで以上に多い枚数を費やした本作では、少ないけれど友達がいたり、異性への関心が芽生えていたりするふつうの女子中学生らしい一面と、両親が近所の人から不審者扱いされている哀しさと自我を殺して耐えるふつうの女子中学生らしからぬ一面とが、より強いコントラストで描き出されている。

 終盤で、ちひろは両親とともに、年に一度の〈星々の郷〉での大きな冬の集会に参加する。両親はちひろを誘って星を一緒に眺めるが、なかなか同じ流れ星を見ることができない。部屋に戻ろうと言うちひろ。「もうちょっと」と引き留める両親。乞われるがまま、夜空を見上げていたちひろの口から思わずこぼれ出たひとことは、意味深だ。中学三年のちひろはもうすぐ、姉が家出した年齢になる。

光文社 小説宝石
2017年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク