性格最悪の女性探偵登場! 『因業探偵』など3冊

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性格は最悪、論理は冷徹 異色の女性探偵登場!

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 因業(いんごう)○○というと年配者のイメージだが、小林泰三(やすみ)『因業探偵』の主役、新藤礼都(しんどうれつ)は推定30代の女性。帯にいわく、「抜群の推理力とサイアクの性格!?」「ミステリー史上もっともタチの悪い名探偵が登場!」。

 とはいえ、彼女は職業探偵ではなく、探偵事務所の開業準備中。資金を稼ぐべく求人広告に片端から応募し、その先々で遭遇する事件を鮮やかに(傍迷惑に?)解決する。

 第1話は、24時間営業の無認可保育所が舞台。保育補助の新藤は、鋭い観察眼で赤ん坊の要求や体調を見抜き、すみやかに対処するが、ぐずっているだけの子は放置。愛していないのかと問いただされ、「愛は関係ないわ。わたしは効率的に仕事をしたいだけ」と言い放つ。この因業な態度と冷徹な論理が彼女の魅力。鉄壁の(非常識な)ロジックで相手を完全論破するのが毎回の見せ場になっている。散歩代行を引き受けた彼女を犬の視点から描く第3話は抱腹絶倒だし、他人の家にずかずか上がり込んで意外な真実を暴く第5話もすばらしい。

 この新藤礼都、実は、小林ミステリにはおなじみのキャラクター。昨年の『クララ殺し』にも出てきたが、記念すべき初登場は、著者初の本格ミステリ長編『密室・殺人』(創元推理文庫)。誰も出入りできない“密室”から消えた被害者と、密室の外で起きた“殺人”―この奇怪な謎に挑む。ただし新藤は探偵ではなく、事件の関係者というか、容疑者の一人。にも拘わらず、持ち前の推理力を発揮して、“世界一異常な探偵”こと四里川(よりかわ)陣に迫る。私見では、本格ミステリ史に残る、異常すぎる大傑作。

 小林ミステリが注目されるきっかけとなった超常本格ミステリ連作集『大きな森の小さな密室』(同)収録の2編にも新藤礼都が登場する。「自らの伝言」では、コンビニでバイト中の彼女がダイイング・メッセージの謎を鮮やかに解決。150万年前の地層から真新しい他殺死体が見つかる壮絶なバカミス「更新世の殺人」では、超限探偵Σ(シグマ)の途方もない推理に対する冷静なツッコミ役を演じる。

新潮社 週刊新潮
2017年7月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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