ダザイストなら応募すべき! 公募型の新人賞〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

レビュー

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太宰治賞2017

『太宰治賞2017』

著者
筑摩書房編集部 [編集]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784480804723
発売日
2017/06/15
価格
1,080円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ダザイストなら応募すべき! 公募型の新人賞

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 小説家・又吉直樹に対し、ひとつ残念に思っているのは、有名人特別枠でデビューしたことです。ダザイストを名乗るなら、太宰治賞に応募すべきだったのに!

 一九六四年に筑摩書房が創設した公募型新人賞。吉村昭、金井美恵子、宮尾登美子などが輩出されてきました。一九七八年に中断したものの、一九九八年、太宰歿後五十年を機に筑摩書房と三鷹市の共同主催の形で復活。第二十一回が津村記久子「マンイーター」(『君は永遠にそいつらより若い』と改題)、第二十六回が今村夏子「あたらしい娘」(『こちらあみ子』と改題)、第二十九回が岩城けい「さようなら、オレンジ」と、話題作を時々生んでいます。

 この賞、いわゆる「下読み」と呼ばれる作業を数年前までは外注せず(多くの新人賞の下読みは、一次二次は書評家や批評家にまかせ、最終選考だけ社内編集者が担当)、筑摩書房の編集者やOBでやっていたのだとか。今も、外注分はほんの少しだそうです。通常の仕事を行いながら一○○○を超える応募作を読むのは、さぞかし大変でありましょう。お疲れさまです。

 第三十三回となる本年度の応募総数は一三二六篇で、社内選考で残った三作から、選考委員(加藤典洋、荒川洋治、奥泉光、中島京子)が受賞作に選んだのは、サクラ・ヒロ「タンゴ・イン・ザ・ダーク」。

 主人公は結婚して三年になる妻Kとセックスレスになっている〈僕〉。ある日、Kは料理をしている時に火傷を負った顔を見られたくないという理由で、夫婦が楽器演奏をするため防音の上にシャワー・トイレつきになっている地下室に閉じこもってしまいます。物語が進んでいくにつれわかってくる、セックスレスになった事情。暗闇の中で行われるフルートとギターによる異様なセッション。選考委員の加藤と奥泉からは厳しめの評価を受けていますが、新人賞受賞作としてはまずまずかと。

 金井美恵子、津村記久子、今村夏子を世に出してくれただけで太宰治賞は良い新人賞。このレベルの受賞者は十年に一人出れば御の字ですから、今後も中断の憂き目に遭うことなく、永遠に存続させていって下さい。

新潮社 週刊新潮
2017年7月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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