『なぜ世界中が、ハローキティを愛するのか?』 クリスティン・ヤノ著

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なぜ世界中の人がキティちゃんを愛するのか?

『なぜ世界中の人がキティちゃんを愛するのか?』

著者
クリスティン・ヤノ [著]/久美薫 [訳]
出版社
作品社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784861825934
発売日
2017/03/31
価格
3,888円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『なぜ世界中が、ハローキティを愛するのか?』 クリスティン・ヤノ著

[レビュアー] 尾崎真理子(読売新聞本社編集委員)

「カワイイ」の破壊力

 「ハローキティ」には謎が多い。なぜ口がないの? 原作の物語は?彼女は英国人? 子猫じゃない!?

 近年、1万か所以上にも売り場が増えた南北アメリカでは、謎の解読も存在の意味づけもかなりの勢いで進む。日系の女性研究者が熱心なファンやサンリオにリサーチしてまとめた本書は、40年に及ぶキティの快進撃を「ピンクのグローバリゼーション」と命名。「カワイイ」を世界の共通語にしてしまった、ゴジラやマリオ、ポケモンとは似て非なる威力を多方面から考察している。

 ともかく、あの無垢(むく)な無表情がすべてを引き寄せているようだ。口がないのは主張を封じられたアジア系女性の戯画だという、フェミニストの主張は以前からあった。年齢、階級、男女を問わず、あまりに大勢の感情を一身に集め続けることから、最近は社会規範を掻(か)き乱す危険なキャラクターだと、呪詛(じゅそ)する人々まで現れているらしい。著者はそこに、人種差別的な匂いも嗅ぎ取るが。

 一方で、どんなデザインもデフォルメも消化し、なおかつアイコンとして際立つという実は最強の個性ゆえ、現代アートやファッション界は競って洗練に手をさしのべる。レディー・ガガはぬいぐるみを縫い合わせた衣装をまとい、着ぐるみキティはニューヨーク証券取引所や高級カジノにもおよばれした。

 文化庁がキティをクールジャパンの主軸に据えたのは2003年。それでも国家に手なずけられた気配はない。なぜならキティに似合いのピンクこそ、権力に異議申し立てを上手に行い、既存の掟(おきて)を破る鍵――。

 こんなふうに果てしなく広がる議論に説得されるかどうかは、分かれるところだろう。ただ、引用された現代日本文化論には何度もハッとした。『菊とポケモン』の著者A・アリスン氏は述べている。

 〈むしろ「日本」という記号(シニフィアン)が、強力なブランドとして高度に混交されたファンタジーに昇華される道を歩んでいる感がある〉。久美薫訳。

 ◇Christine Yano=ハワイ大人類学部教授。著書に『パン・アメリカン航空と日系二世スチュワーデス』。

 作品社 3600円

読売新聞
2017年7月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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