「パンツ屋社長」が考える、人生をはみ出すことの重要性

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人生をはみ出す技術 自分らしく働いて「生き抜く力」を手に入れる

『人生をはみ出す技術 自分らしく働いて「生き抜く力」を手に入れる』

著者
枡野 恵也 [著]
出版社
日経BP
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784822255220
発売日
2017/06/24
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「パンツ屋社長」が考える、人生をはみ出すことの重要性

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

自分の人生を変えるような挑戦をしてみたい。でも、思い切って一歩を踏み出すことができない。何から始めたらいいのかわからない。今の生活を失うのが怖い…。

本書は、こうしたモヤモヤを抱えている人たちに、自分が進むべき道を見つけるためのノウハウを提示するものです。(「はじめに」より)

人生をはみ出す技術 自分らしく働いて「生き抜く力」を手に入れる』(枡野恵也著、日経BP社)の内容について、著者はこう説明しています。東大卒業後にマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、レアジョブ、ライフネット生命を経てパンツブランドの社長に転身したという経歴の持ち主。

平たく言えば「パンツ屋社長」です。

一風変わったキャリアパスだと思われがちなのですが、私自身は平凡で慎重な人間です。これまでのキャリアはずっと順風満帆だったわけではなく、モヤモヤと悩んでいた時期もありました。社会人になったばかりのころ、仕事の基本がなっていない私を見かねたマッキンゼーの上司から「なぜ、あなたは変われないのだと思いますか?」と問い詰められ、「まずは自分を否定するところから始めろ」と書いた紙を自分のデスクに貼って仕事をしていたこともありました。(「はじめに」より)

つまり著者はそうした経験を軸としながら、「どのようにキャリアをはみ出してきたのか、なぜ組織の歯車であり続けることが危険だと思うのか」「そもそもはみ出した生き方をしようと思うに至ったのはなぜなのか」などについての考え方をここで明かしているのです。

でも、「人生をはみ出す」ことはなぜ大切なのでしょうか? 第1章「人生をはみ出せば、自分の進む道が見えてくる」の中の「やりたいことを探す旅」に焦点を当て、著者の真意を引き出してみたいと思います。

やりたいことを探す旅

大企業に限らず、会社で働いていると「自分は組織の歯車にすぎないんだな」と感じることはあるものです。だとすれば、急に「歯車をやめよう。レールの上から外れよう」と提案されて戸惑ってしまったとしても、それは無理のない話。

ただし著者は、「はみ出す」といっても、すぐに会社を辞めて転職したり、企業したりということを勧めているのではないそうです。組織の中にいながらはみ出して、新しいことを始めることだって可能。それが会社にいい影響を与えて自分の働く環境を変え、その結果、仕事がより自分にフィットしたものになる可能性もあるわけです。

そして、最終的に自分にフィットした仕事を見つけるためにはみ出すというのなら、本業以外の分野に首を突っ込んでみたり、組織の中で通常の業務とは関係のないアクションを越してみたりする必要があるともいいます。そうした試行錯誤のプロセスにおいて頼りになるのが、自分が「やりたいこと」「できること」「求められること」がなんなのかという視点。

たしかに、「やりたいこと」「できること」「求められること」の円を描いてみて、その3つが重なるところに「天職」と呼ばれる仕事があるという話はよく聞きます。

はみ出すために試行錯誤を続けていると、果たして自分が前に進んでいるのかどうか不安になることがあります。そんなとき、「自分がいまやりたいことはなんなのか」「できることはなんなのか」「求められていることはなんなのか」を考えると、見通しがよくなってくるということです。

忘れるべきでないのは、自分が「やりたいこと」ばかりを追い求めてもうまくいかないということ。いま、自分にできること、求められていることはなんなのかをまず把握し、そこから出発して、「少しでも自分がやりたいことに近づくためには、どんなスキルを身につければいいのか」を考えたほうが、うまくいくことが多い。著者はそう記しています。(28ページより)

目標から逆算しつつ、「ご縁」も大切にする

キャリアについては、大きく2つの考えた方があると著者は考えているそうです。まずひとつは、最終的な「目標」を決め、そこから逆算してキャリアを積み上げていくという考え方。そしてもうひとつは、「ご縁」を大切にし、その都度自分がおもしろそうだと思った仕事を選択していくという方法。

ただし、どちらの考え方にも一長一短があるのだとか。前者が適しているのは、「いつか起業したい」「有名企業の役員になりたい」「資産家になりたい」などの「目標」がはっきりと決まっている人。とはいえ時間の経過とともに自分がやりたいことが変わってくることもあるため、そういった場合は「どう軌道修正するか」が問題になるといいます。

一方、後者は「ご縁」を重視し、自分がおもしろいと思ったキャリアを選択していくということなので、時代の変化とともに盛り上がっている分野の、エキサイティングな仕事に就ける可能性が高まることに。とはいえ行き当たりばったりの側面があるため、それまで自分が培ってきたスキルが活かせない支離滅裂なキャリアとなってしまいがち。

ここまでなら容易に理解できますが、著者はさらに、この2つの考え方をハイブリッドにした「第三の道」があると考えているのだといいます。「目標」から逆算して「どんなスキルを身につけるべきか」を考えるものの、その「目標」自体は大まかにしか決めないでおくのだそうです。未知の世界も含め、世の中にはたくさんの仕事があるので、それに加えて「ご縁」も重視して選択肢を検討するということ。(30ページより)

こうした考え方は、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授によって「計画的偶発性理論」という研究になっているそうです。その調査によれば、個人のキャリア形成の8割は予期せぬ偶発的なことによって決定されるというのです。とりわけ変化の激しい時代においては、あらかじめ計画したキャリアに固執するよりも、好奇心・持続性・楽観性・柔軟性・冒険心に従って、偶然と意図的、計画的にステップアップの機会へと変えましょうと教授は提唱しています。(32ページより)

転職を含めた偶然の出会い

著者の場合は一貫して、「国際的に活躍したい」「社会の問題を解決したい」という大まかな夢を持ち続けているのだそうです。しかし振り返ってみると、転職を含めた偶然の出会いが、パンツブランドの社長という仕事にまで導いてくれたのだともいいます。

マッキンゼーでは、国際的な舞台での問題解決の仕事に携わることに。就職した当時は国連のようなパブリックセンターで働きたいと夢見ていたためビジネスそのものへの関心は低かったものの、ここでの経験から「むしろ世の中を動かすのはビジネスだ」という当たり前のことに気づいたそうです。

そして、発展途上国の社会課題の解決にビジネスの側面から携わりたいとの思いから、オンライン英会話サービスを提供するレアジョブに転職。インターネットを活用し、英語が苦手な日本人と、英語はできるもののよい仕事がないフィリピン人をマッチングさせ、両者の問題を解決しながら利潤を上げるビジネスモデルを実現したのだそうです。

次いで転職したのは、インターネット生命保険のベンチャーであるライフネット生命。保険は公共性の高い事業であり、インターネットを活用してコストを下げることで「保険を民主化する」というコンセプトにも惹かれたのだといいます。しかも当時は事業の海外展開を検討しているタイミングであり、著者のぼんやりした「夢=やりたいこと」とも重なる部分があったのだというのです。(30ページより)

小さなことからコツコツと

そして「ご縁」に関しては、男性下着ブランド「TOOT」との出会いがそれにあたるそうです。経営の後継者として著者に声がかかったのは、「できること」と「求められること」がぴったりと一致したためだったのではないかと思っているというのです。

TOOTは海外にも熱狂的なファンが多く、日本国内で生産される高品質な下着ブランドとして世界中に展開できると思いました。そういった意味では私の「夢=やりたいこと」とも一致させることができます。また、下着といえば「3枚セット990円」という男性も多い状況を変えて、「いいパンツ」をはいて自分を大切にし、アクティブに活躍する人が増えれば世の中もよくなっていくのではないかと思うようになりました。(34ページより)

そんな著者が事業を展開していくスキルを身につけるにあたっては、レアジョブでの経験が最も役立っているのだそうです。「法人事業の立ち上げ」といえばかっこよく聞こえますが、実態は典型的な法人営業。営業手法をインバウンドとアウトバウンドに分け、アウトバウンドを電話・メール・手紙・対面に分け、さらに対面を飛び込み営業と人脈営業に分ける。そして、それぞれにおいて仮説を立て、それを検証することも自分でやるしかなかったということ。

電話なら私は1ヵ月に1000件を自分でかけました。仮説では「業種によっては10%程度のアポ取得率が期待される」と言った感じでしたが、結果は「業種はもとより無名の英会話ベンチャーが電話営業でアポなんか取れるわけがない」でした。1000件も電話をかけたのに、ほんの3〜4件しかアポが取れなかったのです!(35ページより)

もちろんそれは、当時の自分にはそれくらいしかできることがなかったから。しかし、振り返ってみればその経験が、掛け替えのない財産になっているというのです。「できること」はなんだってやり、結果が出るまでやり抜く。その考え方が、いまの仕事でも変わることなくいかされているということ。だからこそ、著者はこう断言しています。

「できることがあるなら小さなことだってコツコツとやっていく以外に自分の道を切り開く方法はないのです」と。(34ページより)

著者によれば、タイトルにもなっている「人生をはみ出す技術」とは、組織の歯車から外れ、自分らしく楽しく働きながら、新しい価値を創造することなのだそうです。

しかも大切なのは、一念発起して企業するようにガラッと環境を変えるのではなく、リスクを抑えながらスキルを積み、柔軟にキャリアや生き方を変えていくことなのだとか。その方法を解説した本書は、「次の一歩」を踏み出したいと考えている人を、強く後押ししてくれるはずです。

メディアジーン lifehacker
2017年8月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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