子育てはデスゲーム! 地獄から帰還した海猫沢めろん、強烈な育児小説を放つ

レビュー

6
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キッズファイヤー・ドットコム

『キッズファイヤー・ドットコム』

著者
海猫沢 めろん [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062206747
発売日
2017/07/26
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

子育てはデスゲーム! 地獄から帰還した海猫沢めろん、強烈な育児小説を放つ

[レビュアー] 海猫沢めろん

海猫沢めろん
海猫沢めろん

ホスト経験&ワンオペ育児経験を持つ作家・海猫沢めろん。なぜ新作小説『キッズファイヤー・ドットコム』で、ホストがITの力を借りて男性たちだけで育児に挑戦する姿を描いたのかを語る。

■日本の子育てはデスゲームです

「保育園落ちた、日本死ね」が流行語になったのも記憶に新しい今年、ぼくは一本の育児小説を刊行した。

『キッズファイヤー・ドットコム』

ホストが捨て子を拾って、世間に非難されながらもクラウドファンディングで子育てする——―そんな内容の小説である。

編集者から「育児小説を」と依頼されてから実に6年が経っていた。

6年のあいだなにをしていたのか?

子育てである。

これまでそのことをあまり表立っては口にしていなかったのだが、実際大変すぎてネタにしているヒマもなかったのである。

■ワンオペ育児は地獄

今の日本で子育てすることの大変さは、連日いろいろなメディアが伝えているが、こればかりは体験しないとわからない部分が多い。

それに加え、男女・経済・地域によってそれぞれ、あまりに状況がちがいすぎるため、誰かが何か意見を言うたびに炎上しているのを見かける。
以前は他人事だったが、今ならわかる……はっきり言って、日本の子育ては罰ゲームを超えたデスゲームのレベルである。

ぼくの場合、ひとりで面倒を見ている時期がデスゲームのピークだった。保活に戸惑い、なにもかもわからないまま自宅で面倒を見た1年目。2年目にパートナーが体調を崩し、ぼくのワンオペとなる。ぎりぎりなんとか保育園に入ることができたものの、そこは区外の認証園(私立みたいなもの)だった。

毎朝起きて子供を抱っこひもでかかえ、通勤ラッシュの地下鉄に乗り込み、圧死の危機を感じつつ自宅から30分かけて園に子供を連れて行く毎日……眠れない、働けない、お金がない、時間がない。
地獄だった。

子供を育ててわかったのは、東京で育児することの異常なほどの困難さだ。

とにかく日本の子育てで大変なのは、とくに都内に限って言えば保育園問題がやはり大きい。専業主婦が家で子供の面倒を見るケースであればなんとかなるが、共働きが多い今の時代それはムリだ。となると必然的にやはり保育園が必要になってくるのだが……それ以外の選択肢がないのが問題だ。

あとは経済的な問題もある。

出産育児一時金42万円、児童手当が毎月15000円、これが子供を生んだあともらえる助成金だ。保険料や予防接種の料金は無料だが、あとはとくに補助はない。普通に考えると別に悪くない手当だが……しかし、東京は家賃も物価も高い。

そのうえ今は非正規雇用の人も多く、彼らの年収は250万くらい、毎月20万前後の稼ぎだ。東京で、家族3人で暮らせるまともな家に住もうとすれば家賃は15万くらいはかかってしまうとして……毎月20万の稼ぎではギリギリ、共働きでなんとかなるくらいのレベルだ。

さらに問題は非正規はいつ切られるかわからない。そんな状況で子育てできるだろうか。
年収200万のシングルが子供を育てられる仕組みを作ってくれれば、なんとか少子化に歯止めがかかるだろうが……現状を見るにそれは難しい。

逆に、年収の高いキャリアの夫婦が楽かというと、そうでもない。彼らは年収の段階でまず認可園の審査からはじかれるため、結局は女性が仕事を断念するか、経済的に負担の大きい認証園に入るしかない。どちらにせよキツい。

普段は社会問題に興味がないぼくだが、さすがにこの状況を目の当たりにしてびっくりした。

もはや呆れて言葉が出なかったが、ものを書くのが仕事なのでそうも言っていられない。というわけで、このような実体験を経て生まれたのが本書である。

■クラウドファンディングで子育て?

小説のなかでキーワードになる「クラウドファンディング」というのは、あるプロジェクトを立ち上げ、それに共感する出資者を集めて寄付を募るシステムだが、この仕組を使って子育てができないだろうか——

当時はそんなことを考えていた。もし、日本中の老人が貧しい家庭に産まれた赤ちゃんに寄付をしたなら、現在の経済・世代間格差が解消されるかも知れない。

読者の一部から、「クラウドファンディングで子育てするという発想が荒唐無稽では……」と指摘されたこともあるが、実はこのアイデアは2013年に実現している。

借金のある妊婦がツイッターで窮状を訴えたところ、起業家の家入一真がそれをサポート。口座を晒して募金を募ることを提案。賛否の意見があふれて炎上騒ぎになったものの、彼女の口座には、実際にいろいろな人がお金を振り込んだ(現在もアカウントはあるが更新されていない)。

この事件を知ったのは、ぼくが小説を書いた後だった。事件のことを知っても「まあ、あるだろうな」とあまり驚かなかった。現在の育児環境を知れば知るほど、そのくらいのことはありえるだろうと思った。

様々な人が声を上げているにもかかわらず、一向に根本的解決を見ないこの状況……。
社会問題は、たくさんの人間がその大変さに心から共感できてこそ改善されていく。
ぼくの小説がその一助となれば幸いである。

講談社
2017年8月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

講談社

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