乙一×近藤史恵×永嶋恵美・座談会――「恋愛」はダメで、「迷惑」がいい私たち〈『迷―まよう―』『惑―まどう―』刊行記念〉

対談・鼎談

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迷

『迷』

著者
アミの会(仮) [著]/大沢 在昌 [著]/乙一 [著]/近藤 史恵 [著]/篠田 真由美 [著]/柴田 よしき [著]/新津 きよみ [著]/福田 和代 [著]/松村 比呂美 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103511113
発売日
2017/07/31
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

惑

『惑』

著者
アミの会(仮) [著]/大崎 梢 [著]/加納 朋子 [著]/今野 敏 [著]/永嶋 恵美 [著]/法月 綸太郎 [著]/松尾 由美 [著]/光原 百合 [著]/矢崎 存美 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103511120
発売日
2017/07/31
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「恋愛」はダメで、「迷惑」がいい私たち

「迷惑」「迷う」「惑う」

永嶋 お二人はどういう風にテーマとネタを選びましたか?

近藤 私は、どちらに収録されても大丈夫なように「迷惑」なネタを考えました。

乙一 僕は、迷って。字の意味をネットで調べたりしましたが、なんとなく、怪しい印象があって、人を誑かすような字面の「惑う」をみんな、書きたがるようなイメージがあって。それで「迷う」にしようかなと。

永嶋 そうだったんだ! 実は、東京での女子会の時に、「迷う」を選ぶ方が多そうな流れがあったんですよ。だから私は「迷う」で書いたらヤバイかなぁと。

乙一 では最初から、「惑う」で?

永嶋 とは言え、巨大迷路の話も書きたくて。けれど、うまくまとまらなくて、「惑う」にしました。占いのライターをやっていたので、ネタは惑星で、それはすぐ決まりました。けど、蓋を開けてみたら、篠田真由美さんが、迷路のお話を書いていたので、冷や汗をかきました。

乙一 僕は最初は、道に迷う話を考えたんです。カーナビが主人公で。道に迷って、運転手に怒られるんですよ。

永嶋 怒るわ! カーナビ失格だし!

乙一 けど、話がまとまらなくて、「沈みかけの船より、愛をこめて」になりました。

永嶋 実は私、とにかく乙一さんの短編を読みたくて。泣かされると分かっていながら、泣かされてしまう。読後必ず、「やりやがったな、乙一!」と思うその感覚を味わいたくて。それに、同じ賞の出身なのですが、ご一緒する機会がなかったので、お誘いしました。

乙一 ありがとうございます。

永嶋 今回の作品を拝読して、私も両親の仲が悪かったので、これは世界線が違う私の物語だと!

乙一 せ、世界線……。

永嶋 近藤さんの作品は、乙一さんとは対照的に、どこに連れていかれるかが分からなくて、いつもびっくりさせられます。収録作、「未事故物件」を読んで、途中でホラーじゃないと安心したのもつかの間、やっぱりホラーで……。

乙一 怖かったです。

近藤 ホラーとして読ませたかったので、そう読んでいただけて嬉しいです。

乙一 してやられました。

呪われた三人?

永嶋 せっかくなので、お二人が最近、「迷った」ことを教えてください。

近藤 先日、友人と北京に行ったんです。友人は3泊4日、私は4泊5日で、Airbnbに宿泊したんですが、友人が帰国後は不安なので、ホテルに移動することにしていたんです。ただ、友人の帰りの飛行機は早朝で、宿を早くに出発してしまう。私も一緒に起きて友人とタクシーでホテルに向かうか、ゆっくり寝て、一人でスーツケースを押して地下鉄に乗ってホテルに向かうか。とても迷いました。最終的には眠気が勝ち、布団の中で「先に行って」と言ったわけですが。

永嶋 睡魔が不安を吹き飛ばした!

近藤 前夜、Airbnbの家主が警察官も出動するほどの大パーティーを繰り広げて、眠れなかったんです。

乙一 北京警察……。ホテルへは無事に着きましたか?

近藤 はい。無事に。松村比呂美さんの作品のようにはならなかったです(笑)。

乙一 よかったです。僕は、小学一年生の子どもがいて、夏休みに学童のキャンプがあるんですが、それに行きたくなくて、本当に、悩みました。半数以上参加しますし、子どもも行きたがっているので、結局行くことにしましたが、見知らぬ親と何を話せばいいのか分からないし。

永嶋 すごく気持ちが分かります。子どもがらみの行事って断りにくい。

近藤 永嶋さんはどうですか?

永嶋 実は今、お二人のお話を聞きながら、答えに迷っております。まさに、ナウ、話題に迷っています。さ、では「迷惑」なことに遭遇しましたか?

近藤 自宅の目の前でいま、大工事をしていて。窓も開けられなくて……。

永嶋 私もです! 建物を取り壊しているんですよ。

乙一 実は僕も……。

永嶋 これって、解体工事の呪い?

乙一 ちょうど今、奥さんの実家が、解体工事をしています。義父は押井守監督なんですが、監督が学生時代に描いた絵が何枚も出てきて、奥さんと義母は「置き場がないから捨てよう」と。

近藤 なんと!

乙一 慌てて止めたんですが、あげたり売ったりするのは、よくないそうで。義父に打診したら、死ぬまでは保管しておいてくださいと言われて、けど置き場がないので、僕の書斎に新聞紙を間に挟んで立てかけて。ずっと置いておくわけにもいかないし、大きいし、困ったなと。

永嶋 そんなこと、書いてしまって、大丈夫ですか?

乙一 制作会社の人に相談をしたら、資料の保管場所で預かってもらえることになりましたから(苦笑)。ちなみに、次のテーマは決まっているんですか?

近藤 候補はありますが、まだです。

乙一 四文字熟語で。4冊同時刊行でお願いします。

近藤 そんなに人数が増えるかな。

永嶋 実現目指しましょう!

新潮社 波
2017年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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