「恋愛」はダメで、「迷惑」がいい私たち
「迷惑」「迷う」「惑う」
永嶋 お二人はどういう風にテーマとネタを選びましたか?
近藤 私は、どちらに収録されても大丈夫なように「迷惑」なネタを考えました。
乙一 僕は、迷って。字の意味をネットで調べたりしましたが、なんとなく、怪しい印象があって、人を誑かすような字面の「惑う」をみんな、書きたがるようなイメージがあって。それで「迷う」にしようかなと。
永嶋 そうだったんだ! 実は、東京での女子会の時に、「迷う」を選ぶ方が多そうな流れがあったんですよ。だから私は「迷う」で書いたらヤバイかなぁと。
乙一 では最初から、「惑う」で?
永嶋 とは言え、巨大迷路の話も書きたくて。けれど、うまくまとまらなくて、「惑う」にしました。占いのライターをやっていたので、ネタは惑星で、それはすぐ決まりました。けど、蓋を開けてみたら、篠田真由美さんが、迷路のお話を書いていたので、冷や汗をかきました。
乙一 僕は最初は、道に迷う話を考えたんです。カーナビが主人公で。道に迷って、運転手に怒られるんですよ。
永嶋 怒るわ! カーナビ失格だし!
乙一 けど、話がまとまらなくて、「沈みかけの船より、愛をこめて」になりました。
永嶋 実は私、とにかく乙一さんの短編を読みたくて。泣かされると分かっていながら、泣かされてしまう。読後必ず、「やりやがったな、乙一!」と思うその感覚を味わいたくて。それに、同じ賞の出身なのですが、ご一緒する機会がなかったので、お誘いしました。
乙一 ありがとうございます。
永嶋 今回の作品を拝読して、私も両親の仲が悪かったので、これは世界線が違う私の物語だと!
乙一 せ、世界線……。
永嶋 近藤さんの作品は、乙一さんとは対照的に、どこに連れていかれるかが分からなくて、いつもびっくりさせられます。収録作、「未事故物件」を読んで、途中でホラーじゃないと安心したのもつかの間、やっぱりホラーで……。
乙一 怖かったです。
近藤 ホラーとして読ませたかったので、そう読んでいただけて嬉しいです。
乙一 してやられました。
呪われた三人?
永嶋 せっかくなので、お二人が最近、「迷った」ことを教えてください。
近藤 先日、友人と北京に行ったんです。友人は3泊4日、私は4泊5日で、Airbnbに宿泊したんですが、友人が帰国後は不安なので、ホテルに移動することにしていたんです。ただ、友人の帰りの飛行機は早朝で、宿を早くに出発してしまう。私も一緒に起きて友人とタクシーでホテルに向かうか、ゆっくり寝て、一人でスーツケースを押して地下鉄に乗ってホテルに向かうか。とても迷いました。最終的には眠気が勝ち、布団の中で「先に行って」と言ったわけですが。
永嶋 睡魔が不安を吹き飛ばした!
近藤 前夜、Airbnbの家主が警察官も出動するほどの大パーティーを繰り広げて、眠れなかったんです。
乙一 北京警察……。ホテルへは無事に着きましたか?
近藤 はい。無事に。松村比呂美さんの作品のようにはならなかったです(笑)。
乙一 よかったです。僕は、小学一年生の子どもがいて、夏休みに学童のキャンプがあるんですが、それに行きたくなくて、本当に、悩みました。半数以上参加しますし、子どもも行きたがっているので、結局行くことにしましたが、見知らぬ親と何を話せばいいのか分からないし。
永嶋 すごく気持ちが分かります。子どもがらみの行事って断りにくい。
近藤 永嶋さんはどうですか?
永嶋 実は今、お二人のお話を聞きながら、答えに迷っております。まさに、ナウ、話題に迷っています。さ、では「迷惑」なことに遭遇しましたか?
近藤 自宅の目の前でいま、大工事をしていて。窓も開けられなくて……。
永嶋 私もです! 建物を取り壊しているんですよ。
乙一 実は僕も……。
永嶋 これって、解体工事の呪い?
乙一 ちょうど今、奥さんの実家が、解体工事をしています。義父は押井守監督なんですが、監督が学生時代に描いた絵が何枚も出てきて、奥さんと義母は「置き場がないから捨てよう」と。
近藤 なんと!
乙一 慌てて止めたんですが、あげたり売ったりするのは、よくないそうで。義父に打診したら、死ぬまでは保管しておいてくださいと言われて、けど置き場がないので、僕の書斎に新聞紙を間に挟んで立てかけて。ずっと置いておくわけにもいかないし、大きいし、困ったなと。
永嶋 そんなこと、書いてしまって、大丈夫ですか?
乙一 制作会社の人に相談をしたら、資料の保管場所で預かってもらえることになりましたから(苦笑)。ちなみに、次のテーマは決まっているんですか?
近藤 候補はありますが、まだです。
乙一 四文字熟語で。4冊同時刊行でお願いします。
近藤 そんなに人数が増えるかな。
永嶋 実現目指しましょう!