『夜明けの約束』 ロマン・ガリ著

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夜明けの約束

『夜明けの約束』

著者
ロマン・ガリ [著]/岩津 航 [訳]
出版社
共和国
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784907986407
発売日
2017/06/09
価格
2,808円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『夜明けの約束』 ロマン・ガリ著

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

過剰な愛注がれた息子

 本書の表記は「ガリ」だが、私はかつての角川文庫の異色作『白い犬』で「ギャリ」と覚えていた。映画『史上最大の作戦』の脚本に名があるとか、女優ジーン・セバーグと結婚していたとか、断片的な情報もなんとなく知っていた。そんなぼんやりと気になっていた作家の自伝的小説である。母と息子の物語である。そうか、こんな人だったのか。

 現リトアニアの首都ビリニュスに生まれて、父は失踪、母子二人で欧州動乱を漂流する羽目になる。旅芸人じみた女優の母と東欧各地を転々、ビリニュスに帰り着くや、この肝っ玉かあさん、怪しげな商売に手を出しながらなかなかたくましい。やがてフランスでホテル経営に乗り出すが、第二次大戦勃発、ナチス・ドイツの仏占領である。ガリはイギリスに渡って自由フランスに参加、戦場へ。戦火に引き裂かれた母子は中立国スイス経由で連絡を取り合って……そして意外な結末が待っている。

 そんな第二次大戦終結までの回想とはいえ創作も入り交じったガリ前半生の物語である。過剰なまでの母の愛に応えようとする息子の奮闘とその別離がユーモアとペーソスたっぷり、ほほえましくも哀切に描かれる。息子への過剰な愛は、寄る辺ない母子が動乱を生き抜くための支えではなかったか。母には息子しかなく、息子には母しかなかった。訳者解説に「世の多くの息子たちにとって意味ある作品」とあるが、そのひとりである私に本書は確かに響いた。

 戦後は仏外交官に、そしてセバーグと結婚、映画監督に。作家としては二度のゴンクール賞に輝いた。二度目はエミール・アジャール名義の受賞だが、二人が同一人物と判明したのはガリが自ら命を絶ってからで、これは仏文壇の事件となったとか。なかなかとんでもない作家である。今年三月には逸品揃(ぞろ)いの短編集『ペルーの鳥』が水声社から出た(こちらは「ギャリ」)。引き続いての紹介を期待したい。岩津航訳。

 ◇Romain Gary=フランスの小説家、映画監督、外交官。監督した映画に「ペルーの鳥」。

 共和国 2600円

読売新聞
2017年7月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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