『アフガン・緑の大地計画』 中村哲著

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『アフガン・緑の大地計画』 中村哲著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

時代超えた水路の技術

 著者の中村哲氏は国際NGO団体「ペシャワール会」を母体に、アフガニスタンで30年以上にわたって活動を続ける医師だ。もともとはハンセン病を主とした貧困層の医療支援に携わっていたが、同地での旱魃(かんばつ)が深刻化した2000年頃から、医療活動の一環として井戸の掘削を始めたことで知られる。その彼が近年、最も力を入れてきたのが、60万人規模の農民の生活を保障する「緑の大地、15ヶ年計画」という農業用水路の建設だ。本書はこの灌漑(かんがい)事業で使用した工法などを自ら解説した技術書である。

 近代的な技術やインフラのない場所で持続可能な灌漑事業を目指すには、いかに土地の人々が自分たちの力で水路や堰(せき)を維持・管理できるかが鍵となる。その意味で中村氏が試行錯誤の末に、日本の伝統河川工法を活用したことが興味深い。例えば彼の故郷・福岡県を流れる筑後川に、「山田堰」という堰がある。江戸時代のもので、夏と冬の水量の増減に対応できる。この工法がアフガニスタンの急流河川や気候に合い、事業の中で応用された。また、組んだ針金に石を入れる「蛇籠(じゃかご)」に、柳を植えて根を石垣に絡ませる「柳枝工(りゅうしこう)」を組み合わせることで、頑強な用水路を作り上げるといった工夫も数多く紹介されている。

 本書は人材育成のための教材として書かれた本だが、淡々とした記述のそこかしこに骨太な思想が熱く通っているのを感じた。過去の伝統工法が時代と国を超え、国際社会から忘れられた貧しい人々の生活の土台となる。砂漠化して人の消えた村に水が引かれ、難民や兵士たちが帰村し、緑と耕地が甦(よみがえ)っていく――。その様子を写した何枚もの写真に胸を強くうたれる。

 中村氏の生い立ちやこれまでの格闘の日々については、『天、共に在り』などの自伝的著作があるので、関心のある方はぜひあわせて読んで欲しい。国際的な支援のあるべき一つの姿が、実感として伝わってくるはずである。

 ◇なかむら・てつ=1946年福岡県生まれ。医師。著書に『ペシャワールにて』など。

 石風社 2300円

読売新聞
2017年7月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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