<東北の本棚>復興奏でるハーモニー

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<東北の本棚>復興奏でるハーモニー

[レビュアー] 河北新報

 ドイツ・ベルリンで2016年3月、相馬市の子どもたちが名門ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と共演した。演目はベートーベンの交響曲第5番「運命」。楽器を始めて数年の少年少女が堂々と演奏する姿に、惜しみない拍手が送られた。
 本書は、東日本大震災後に発足した「相馬子どもオーケストラ&コーラス」が、名門オーケストラと共演するまでの成長を追った。
 子どもたちを支えるのは12年に設立された支援団体「エル・システマジャパン」。南米ベネズエラ発祥の音楽教育システム「エル・システマ」を被災地に導入し、地域ぐるみで復興支援に取り組む。エル・システマとは、専門家による指導や楽器の貸与を行う無償の音楽教育プログラム。子どもオーケストラもこの一環で生まれた。
 ベルリン・フィルとの共演は、ドイツの支援者が働き掛けて実現した。驚くのは子どもたちが「運命」を約5カ月で習得し、プロと見事なハーモニーを奏でたこと。指導者の手腕はもちろん、子どもたちの限りない可能性を示す出来事だった。参加した中学生は「今後も音楽を楽しみ、向上心を忘れない」と前を向く。
 震災や原発事故からの復興は道半ば。将来に不安を抱える人も多い。そんな中、演奏活動は子どものやる気を引き出し、地域との結び付きを強めていく。「音楽で地域を元気にしたい」「人の役に立つ仕事がしたい」と夢を語る子どもも出てきた。成長した彼らが郷里のため活躍する姿を見るのもそう遠くないだろう。
 著者は1972年前橋市生まれ。新聞社などを経てフリーライターとして活動中。
 汐文社03(6862)5200=1512円。

河北新報
2017年8月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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