「前説」のプロが教える、人に伝わる「いい声」の出し方

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10秒で人の心をつかむ話し方

『10秒で人の心をつかむ話し方』

著者
加藤昌史 [著]
出版社
祥伝社
ISBN
9784396615994
発売日
2017/08/02
価格
1,540円(税込)

「前説」のプロが教える、人に伝わる「いい声」の出し方

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

10秒で人の心をつかむ話し方』(加藤昌史著、祥伝社)の著者は、学生時代に芝居と出会い、1985年に演劇集団キャラメルボックスを結成した人物。現在も製作総指揮として活躍中であり、一貫して「責任者出てこいって言われる前に出てる」をモットーに「前説」をしてきたのだそうです。

前説って何? という方もいらっしゃると思います。開演直前の舞台に立ち、「携帯の電源を切ってください」といったごく当たり前の注意事項や、DVDやフォトブックといった物販の紹介を短い時間に喋る、いわば舞台と客席を繋ぐ仕事です。(「はじめに」より)

長きにわたってそんな役割を果たしているのですから、もはや緊張することなどないのでは? そう思いたくもなりますが、実際にはいまでもものすごく緊張しているのだといいます。しかし、その緊張をまわりに気づかれることもなく、短時間で言いたいことを言い、ときには笑いを取ることもあるというのですが、それは「一声二顔三姿(いちこえにかおさんすがた)」を意識しているからなのだそうです。

それは、舞台関係者が大事にしている言葉なのだそう。とはいえ役者に限らず、人前でしゃべる機会がある人は、覚えておいて絶対に損しないのだともいいます。そこで本書の前半でも、まずは「声」「顔」「姿」に関して覚えておきたいことを解説しています。きょうはそのなかから、「声」について触れた第1章「最初の10秒で大事にしたい『声』」を見てみたいと思います。

誰でも磨けば「いい声」になれる

先ほど触れたように、いい役者の条件は「一声、二顔、三姿」。しかしそれは役者に限らず、人前で話す時は誰でも同じだと著者はいいます。つまり、声がいちばん大事だということ。

ただし、「声が悪い人は人前で話すことに向いていない」という意味ではないのだそうです。著者のいう「いい声」とは、いわゆる美声を指しているのではなく、「聞き手がよく聞きとれる声」ということ。ハスキーボイスでも、低い声でも、なにを話しているのかが聞き手にしっかり伝わるのは「いい声」だという考え方です。

なお人前で話すことを苦手だと感じている人の多くは、声を出すことが苦手なのかもしれません。でも著者は自身の経験に基づき、誰でも大きな声を出せるようになれると断言しています。「引っ込み思案だから」「自信がないから」など、なんらかのトラウマから心に鎧を着せてしまっているだけだというのです。

皆さんが人前で話すのは、プレゼンや会議、朝礼のスピーチや冠婚葬祭のスピーチのような、数十人ぐらいに向かって話すことが大半だと思います。

聞き手が数十人であっても、基本は変わりません。

その場にいる全員に、自分の声をしっかり届けられる。

それは誰でも、気の持ちようと心の準備とほんの少しだけのトレーニング次第でできるようになります。(22ページより)

そして、まず覚えておくべきは、「いい声」は磨けば誰でも身につけられるということだといいます。(18ページより)

自分の「いい声」を見つける

自分の「いい声」を見つけるためには、自分の本当の声を知ることが大切。そこで、まずはスマホなどのボイスレコーダー機能を使って録音するか、話している様子を自撮りで動画撮影することを著者は勧めています。

ちなみに、ふだん自分が聞いている声と、実際に自分が話している声は違うもの。専門的にいうと、声には頭蓋骨などの骨が振動して音が伝わる「骨導音」と、空気の振動で音が伝わる「気導音」のふたつがあるのだそうです。ふだん自分が聞いているのは、このふたつが組み合わさった音。一方、録音した音は気導音だけなので、音の捉え方にズレが生じるというのです。

自分が感じる「変な声」のなかには、必ず「いい声」が隠れているのだと著者はいいます。そして「いい声」を見つける方法は、サイレンのマネをすることなのだとか。昔の消防車のサイレンは、低い「う〜」という音からはじまり、徐々に音が高くなっていくものでした。

それをマネして、「う〜」「あ〜」と低い声からはじめ、自分の声の限界の高い声までゆっくりと上げていくのだそうです。これを何回か繰り返すと、「自分はここまで声が出る」「ここまでしか出ない」ということがわかるわけです。

その中で気持ちよく額の真ん中辺りに響く音があります。これが、自分の一番響く声、つまり、聞き手に届く「いい声」です。

よく分からないときは、「ん〜」とハミングで音を変えていくと、「ここ」というのが見当つきます。(26ページより)

響く声がわかったら、人前で話す際にはその声で話せるように、日常的に「額の真ん中あたりに響いているか」を意識してみるといいそうです。それを録音して聴きながら調節していけば、誰でも「いい声」で話せるようになるというのです。(24ページより)

最初の10秒は「バズーカ砲を撃つ声」で

人前で話す際、特に大切なのは「最初の10秒の声」だと著者は強調しています。マイクを持ち、「え〜…」と消え入りそうな第一声からはじめたら、「ちゃんと話せるのかな?」と疑われても当然。だからこそ最初の10秒は、会場にいる全員に声が届くように、高めの大きな声から入るのが基本だということ。

著者はそういう声を「バズーカ砲を撃つ声」と呼んでいるそうですが、もちろんそれは大声でがなりたてるということではありません。そもそも「大声」と「通る声」は似て非なるもの。商店街では魚屋や八百屋さんの声が通行人を呼び止めることがありますが、それがまさにバズーカ砲の声。魚屋や八百屋さんは、喉を潰さない声の出し方や、歩いている人に届きやすい声の高さを自然に体得しているわけです。

なお著者は最初の10秒で、いちばん後ろにいる人に向かってバズーカ砲の声を撃つのだそうです。最前列に向けると、自然と小さめの声になってしまうもの。しかし最後列の人に向かって元気よく声を放てば、その場の全員が話に集中するモードに切り替わるというのです。ただし、意識しておくべきこともあるようです。

役者でない人がバズーカ砲を撃つ声で話し続けるのは、かなり難しいと思います。おそらく、喉をつぶしてしまいます。

ですので、バズーカ砲を撃つのは最初の10秒だけ。その後は「水巻の声」に移ります。

水撒きの声とは、「僕の声、届いてますよね」「聞こえてますよね」とひとりひとりに話しかけていくようなイメージです。鉢植えの植物に水やりをするときは、葉や花を傷めないよう、ホースの先をつぶして水やりをします。そのイメージで、会場の隅から隅まで声を届けるのです。(32ページより)

著者の場合は、前に座っているお客さんに対しては少し声を落とすものの、2階席に呼びかけるときは自然と強くて高めの声になるといいます。水撒きするときは、足元には強くかけず、離れている距離には少し強めの水圧で水をかけるもの。それと同じだということです。

つまり、聞き手の人数や「どこに向かって話すのか」によって、声の音質とベクトル、飛ばし方を変えるということ。それをせずにずっと同じ大きさ、同じ高さの声で話していたら、相手には届かないものだと著者は記しています。(28ページより)

「生声」で会場の隅にまで届く声を出す

みなさんが人前で話すときは、基本的にマイクを使うことが多いのではないでしょうか? しかしマイクを使うからといって、口のなかだけでひとりごとをいうようにボソボソ話していたら、さすがのマイクにも拾うことはできません。マイクが完治しやすいように、くっきり粒立った「通る声」を出すようにすることが大切だということ。また同じことは、1対1で話すときでも同じだといいます。

声を粒立たせ届く声にするためには「お腹から声を出す」ことに慣れる必要があります。これは、難しそうに聞こえるかもしれませんが誰でも可能です。(中略)自分で出していても気持ちがいい音程・音質・音量を見つければよいのです。人間の体は、楽器のようなものです。全身を振動させて、頭蓋骨の真ん中から声を飛ばしていくようなイメージで、僕はいつも声を出しています。池袋のサンシャイン劇場で約800人のお客様に生の声が届くので、1000人くらいまでなら全身を使えば「生声」でも届くと思います。(37ページより)

赤ちゃんの泣き声は大きなホールでも響き渡るものですが、だからといって喉を傷めてはいません。同じような感じで響く声を出せれば理想的だそうです。(34ページより)

著者は本書について、32年間かけてつくりあげた自分なりの「話して伝える技術」の集大成だと記しています。つまりは100%、自身の経験が軸になっているということ。ひとつひとつの言葉や考え方に説得力があるのは、きっとそのせいです。

「人前でしゃべるのが苦手」だという悩みを抱えている方は、参考にしてみてはいかがでしょうか?

メディアジーン lifehacker
2017年8月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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