『歌うカタツムリ』 千葉聡著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

歌うカタツムリ : 進化とらせんの物語

『歌うカタツムリ : 進化とらせんの物語』

著者
千葉 聡 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784000296625
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『歌うカタツムリ』 千葉聡著

[レビュアー] 塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

進化論争ぐるぐる巡る

 タイトルからはなんの話か分からないだろう。これは読んでみるしかない。タイトルの選び方も構成も語り口も、ちょっと日本離れした、スケールの大きな自然史の物語だ。英米の良質の自然科学本を読んだ満足感がある。これほどの書き手をこれまで放っておいたとは、自然系編集者はこぞって反省すべきだろう。逆に岩波の担当者は慧眼(けいがん)だった。この非日本的なタイトルを認めた販売部も、その勇気をたたえたい。

 さて内容だ。

 カタツムリの物語である。そして進化や種の分化の考え方についての、意見の変遷の物語だ。ダーウィン、ウォーレスといったいにしえの時代から現代に至るまで、人々の考えの変遷が語られる。もちろんそういう議論はカタツムリばかりを対象になされてきたわけではない。そのため話がカタツムリから少し離れすぎてきたかな、と思うと、これが絶妙なタイミングでカタツムリに戻ってくる。蕩々(とうとう)と流れる物語だ。

 うまいな、このまま時代の先端を追って現代に至るのだろうと読んでいくと、それが突然、最後になって、的確な位置に置かれた一言により、見事に著者自身の物語へと転換する。この話の切り替わりもすばらしい。以前ここで紹介した『貝と文明』を思い出させる。そういえばあれも貝の話だった。

 科学ライブラリーシリーズの一冊なので、高校の生物学を習っていれば、なんの苦も無く読み進められるだろう。まだ中学生だとしても、興味があることについては背伸びのできる世代。きっと楽しんで読むことができるはずだ。是非(ぜひ)多くの人に読んでもらいたい良書である。

 さて表題は、かつて南国の楽園で歌っていたというカタツムリたちのことだ。その真偽を確かめようにも、既にかれらは外来種の侵入により絶滅してしまった。同じことが今、日本の小笠原でも起きている。その悲哀も本書に独特の情緒を与えている。

 ◇ちば・さとし=1960年生まれ。東北大教授。専門は進化生物学。著書に『生物多様性と生態学』(共著)。

 岩波科学ライブラリー 1600円

読売新聞
2017年8月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加