『衰退の法則』 小城武彦著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

衰退の法則

『衰退の法則』

著者
小城 武彦 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784492533901
発売日
2017/05/26
価格
3,240円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『衰退の法則』 小城武彦著

[レビュアー] 柳川範之(経済学者・東京大学教授)

企業の衰えを防ぐ力

 企業が衰退したり破綻したりするのに、何か共通の原因や法則はないのか。それが見つけられれば、企業を復活させることもできるはずだ。産業再生機構勤務等、企業再生の現場を長年見てきた著者が、この問題に挑んでいる。

 ただし、客観性を担保したいという意図から著者自身の経験は分析対象から外され、計87人、121時間に及ぶインタビューを実施して、多くの企業の内情に鋭く迫っている。

 もちろん、全員がインタビューに正しく答えているとは限らないし、バイアスのかかった発言をしている人も中にはいるだろう。しかし、多くの声を集めることで、全体の傾向を浮かびあがらせている。

 社内調整能力や幹部の意向を忖度(そんたく)する能力に長(た)けたミドルが出世し、経営の意思決定も、波風を立てない予定調和的な色彩が強い。こういう企業は、平時には問題がないのだが、事業環境が激変する「有事」になると問題が顕在化し、衰退への道をたどってしまうという著者の指摘には、自分の会社の実情と照らし合わせて、思わず頷(うなず)く読者も多いのではないだろうか。

 その一方でそんな傾向は、実は破綻企業だけではなく、日本のどんな企業でも多かれ少なかれあるのでは、という疑問を持つ読者もいるに違いない。

 本書が、もう一つ特徴的なのは、うまくいかなかった企業についてだけでなく、それと類似のうまくいっている企業についても同様の調査を行い、両者の比較をしていることだ。

 その結果、実はうまくいっている企業にも上記のような傾向が見て取れることが分かる。やはり日本全体の傾向ではあるのだ。ただし、両者を大きく違えているのは、「現場・現実を重視し、事実に基づく議論を尊重する規範」があることだと指摘する。この点が大きなくさびとなって、衰退を食い止める力になっているという分析結果はとても興味深い。

 ◇おぎ・たけひこ=1961年生まれ。日本人材機構社長。通商産業省などを経て企業再生に携わる。

 東洋経済新報社 3000円

読売新聞
2017年8月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加