『モンゴル帝国誕生 チンギス・カンの都を掘る』 白石典之著

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モンゴル帝国誕生 チンギス・カンの都を掘る

『モンゴル帝国誕生 チンギス・カンの都を掘る』

著者
白石 典之 [著]
出版社
講談社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784062586559
発売日
2017/06/10
価格
1,782円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『モンゴル帝国誕生 チンギス・カンの都を掘る』 白石典之著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

実直な指導者チンギス

 人類のグローバリゼーションは海の道と草原の道を結んだクビライ治下のモンゴル世界帝国で最初のピークを迎えた、と一般には考えられているが、モンゴル帝国の創始者チンギス・カンについては意外とその治績が知られていない。本書は、長年モンゴルで発掘を続けてきた考古学者が描く等身大のチンギス像である。

 遊牧民は放浪するのではなくある程度決まった場所を1年かけて季節移動する。「千戸制」を基本とする大小の人々の集まりをモンゴル語ではウルスと呼ぶが、ウルスは季節移動する固有の領域を持っていた。人と土地のウルスを結ぶのがジャムチ(駅伝制)だ。これがモンゴルの国制の基本的な仕組みである。

 著者が発掘したアウラガ遺跡は、チンギスの都跡であったことがほぼ確実視されているが、宮殿は小さく質素で商店もそれほど並んでいるわけではない。その代わりに目立つのが鉄工房で、遺跡全体が鉄コンビナートだったのだ。著者は発掘現場で見出(みいだ)した個々のファクトを丁寧に結び付けてチンギスの実像に迫っていく。

 当時のモンゴル高原は、東北部から興った金と金に西方に追われた契丹(西遼)の代理戦争の舞台だった。モンゴル族の多数は西遼に与(くみ)していたがチンギスは金に加担して頭角を現す。おそらく距離的に近い金の先進的な文物や技術が狙いだったのだろう。鉄塊など金の資源を入手したことで軍事力は格段に強化された。また、馬具の軽量化を図り軽装騎兵を生み出した。これは他のモンゴル軍でも見られたが、チンギスの巧みさは軽量化と鉄器生産技術をリンクさせたことだった。そして鉄器の安定生産を支えるため交通インフラの整備に努めた。つまり「馬・鉄・道」の三者を選択し集中したのだ。

 チンギスはモンゴルの民の安全と繁栄の実現を夢見た実直なリーダーだった。世界征服を夢見た傲岸不遜(ごうがんふそん)な侵略者ではなかった。これが著者の結論である。

 ◇しらいし・のりゆき=1963年生まれ。新潟大人文学部教授。2003年、モンゴル国大統領表彰を受ける。

 講談社選書メチエ 1650円

読売新聞
2017年8月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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