「戦争がつくった現代の食卓」 “ミリ飯”が発展させた食

レビュー

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20世紀の食を発展させたのは「ミリ飯」の技術開発だった

[レビュアー] 成毛眞(書評サイト〈HONZ〉代表)

 ミリ飯。小さなご飯という意味ではない。ミリタリーすなわち軍隊で支給される携行食のことである。海軍や空軍はそれぞれ艦内や基地に厨房があるため、いつも温かい食事が摂れる。しかし、野戦を主とする陸軍は兵士が自分の食料を携行する必要がある。

 そのため、食料はできるかぎり小さく軽く、しかも日持ちする必要がある。陸戦が主力だった戦国時代には干飯や焼味噌などを陣中食として腰に下げていた。現代の陣中食すなわちミリ飯はどのようなものだろうか。

 陸上自衛隊では赤飯やマグロ煮の缶詰、レトルトパウチに入った白飯やチキントマト煮などが支給されている。缶詰の誕生に深い関わりがあるのは、18~19世紀に活躍したナポレオンだった。当時はガラスの瓶詰めだったが、やがてブリキ缶が発明され、現代のスーパーマーケットにも缶詰コーナーがあるほど発達した。

 いっぽうのレトルト食品は20世紀のアメリカ陸軍によって発明された。ネイティック研究所というミリ飯を専門に研究する施設が作られ、そこでさまざまな食品や保存技術などの開発が行われたのだ。

 もちろんこの研究所はレトルト食品だけを作り出したわけではない。高温でも溶けないチョコレート、日持ちするパン、成型肉の開発などにも関わっている。

 軍事技術の食品への転用という観点ではフリーズドライも欠かせない。いまでは簡単で美味しい味噌汁で有名なこの技術も米軍が開発したものだ。野戦病院で治療するために、血漿を冷凍してから乾燥させて粉末にしたのが始まりだった。電子レンジもレーダーに使われていた技術を転用したものだ。

 とはいえ著者は、軍事技術の民間転用を礼賛することもない。淡々と食品とその開発の背景を取材し、科学的な解説を加え、読者に判断を委ねるのだ。日頃の食卓を見直すためにも読んでおきたい一冊だ。

新潮社 週刊新潮
2017年8月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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