うんこ漢字ドリル 学参書としては変化球、けれど「読ませる」直球勝負〈ベストセラー街道をゆく!〉

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学参書としては変化球 けれど「読ませる」直球

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 夏休みに浮かれる小学生の前に立ちはだかる壁・漢字ドリル。一気にやってしまえばいい、とは思うのだが、すぐに反復練習の単調さに飽きてしまい、実際はちっとも進まない。だが、そんな難敵に子供たちが大好きな「アイツ」を掛け合わせることで、前代未聞のエンターテインメントに変えてしまったケースがある―その名も『うんこ漢字ドリル』。3月下旬の発売以来、1年生用から6年生用まで合わせたシリーズ累計は実に266万部。学参書としては異例の爆売れだ。

 なにはともあれ最大の特徴は、3018の全例文に「うんこ」が含まれる点。穴埋め用の空欄まで「うんこ」の形をかたどる徹底ぶりには、つい感嘆の声を漏らしてしまう。とはいえ「あくまで主眼は“うんこ”という言葉の持つ面白さ」と担当編集者は強調する。

「当初は判型も“うんこ型”にする案があったのですが、それだとページがめくりづらくなるし、中身よりも表面的なキワモノ感が目立ってしまう。例文を活かす枠組みを追求しました」

 すべての例文は『温厚な上司の怒らせ方』などの爆笑動画のクリエイターとして知られる古屋雄作氏が考案。「ここで今すぐうんこをすることもできるんですよ。」(小学2年生)といった、じわじわ来るシュールな一文から、「うんこをもらした政治家の支持率が、なぜか上がった。」(小学5年生)といった、大衆心理を見事に穿った名文まで、バリエーション豊かなネタが投入されている。また、年次が上がるにつれ“うんこからの卒業”を匂わせる文が登場し、全体を通じてまさかの物語感(!)が導入されている点も見逃せない。

「とにかく例文が面白いので、お子さんたちがリビングでドリルをやりながら声に出して読み上げるらしくて。すると家族みんなで爆笑するという……。コミュニケーションツールとしての側面もあると思うとすごく嬉しいです」(同前)――うんこなのにイイ話……!

 学参書としては変化球。けれど、「読ませる」という直球勝負にはとことんこだわってつくられた本。そりゃヒットしないわけがない。

新潮社 週刊新潮
2017年8月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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